第210話

「……あっちは終わったみたいだな」


「っっっ!?」


 伸がカサンドラとの戦いを続けているうちに、綾愛たちの戦いが結末を迎えた。

 そのことに気付いた2人は、別々の反応をしていた。

 笑みを浮かべた伸と、驚きの表情で固まるカサンドラにだ。


「そんなバカな……」


 この日のために準備を重ねてきた。

 ゴブリンクイーンの失敗もあり、魔人たちも数よりも質を選んだというのに、こんな結果になることは想定していなかった。

 そのため、カサンドラはこの現状を受け入れきれずにいた。


「何のためにあいつらをと思っているのよ……」


 混乱しているからか、カサンドラは思っていることを口から出ていた。


『っ!? ?』


 カサンドラの呟きはごく小さいものだったが、伸はそれを聞き洩らさなかった。


「どういうことだ? 作り出したってのは……」


「…なんのことよ?」


 カサンドラが呟いた言葉が気になり、伸は直接問いかけることにした。

 動揺していることがバレ、その理由に伸の思考が向いてしまうと、知られては困ることに気付かれてしまうかもしれない。

 そう考えたカサンドラは、必死に声を詰まらせないように問い返したつもりだったが、僅かにできた間を伸は見逃さなかった。


「……まさか、魔人を作り出しているのか?」


「っっっ!!」


「やっぱりそうか……」


 仲間が殺されたことで呟いたことから、作り出したというのは魔人のことなのではないか。

 そう考えた伸が問いかけると、カサンドラの表情が固まる。

 その反応から、伸は自分の考えが間違っていないことを確信した。


『だとしたらマズいな……』


 魔人を作り出す方法がある。

 その知識を魔人側が所持している。

 それが本当なら、これからも魔人が何体も生み出されるということになる。

 相手にできる魔闘師はかなり少ないというのに、魔人の数が増えたら手に負えなくなる。

 

『なんとか捕縛をしたいところだが……』


 魔人の作り方を知らないと、阻止する方法も思いつかない。

 そのためには、作り方を知っているカサンドラを捕まえて尋問するしかないが、そんな簡単な相手ではない。

 倒すよりも難しいことになってしまったと、伸は心の中で思っていた。


「目聡いわね。知られた以上、始末しなければならなくなってしまったわ」


 自分のせいとはいえ、魔人を作り出せる方法があるということを知られてしまった。

 秘匿とすべき情報を知られてしまった以上、伸をこの場で倒さなければならない。

 そのため、カサンドラは両手に魔力で作り出したブーメランを手に持ち、伸に向けて構えた。


「そいつは無理だ。お前じゃ俺には勝てないからな」


「何っ!?」


 伸は余裕を見せるように刀の背で肩を叩きつつ、カサンドラの言葉を否定する。

 勝利を確信しているかのような舐めた態度に、カサンドラは顔を赤くした。


「柊家にダメージを与えるつもりだったようだが、狙う人間を間違えたな」


 綾愛を狙ったということは、柊家の弱体化を狙ったためだろう。

 しかし、その企みは完全に失敗だ。


「……どういうこと?」


「娘の方じゃなく、当主の方を狙っていたら今回の人数でもなんとかなったかもしれないということだ」


「……なるほど、そういうこと……」


 言っている意味が分からず、カサンドラは首を傾げる。

 すると、伸はその理由を説明した。

 それを受けて、カサンドラは何が言いたいのかを理解した。


「年末に襲い掛かったナタニエルたちを葬り去ったのは鷹藤家や柊家の当主によるものではなく、あなただったのね?」


「その通り」


 去年の年末の対抗戦終了後、ナタニエルという魔人をトップとした魔人たちが会場を襲撃した。

 そのナタニエルを柊家当主の俊夫と鷹藤家当主の康義が、それ以外の魔人たちを大会の観戦に来ていた名門家の者たちが討伐することに成功した。

 世間にはそう伝えられているが、俊夫や康義の実力でナタニエルを倒せるかは微妙だと、カサンドラは思っていた。

 しかし、目の前の人間離れした強さを持つ伸を見て合点がいった。

 伸も加われば、ナタニエルを倒すことも可能だと。


「そんな情報を口にして良かったの? 私の仲間が他にいると思わないの?」


 魔人にとってこの大和皇国で一番危険なのは、柊家や鷹藤家の当主などではない。

 目の前にいる伸だ。

 本人もナタニエルを倒したと言っていることだし間違いない。

 自分たち魔人にとっては貴重な情報だ。

 それを軽々に口にした伸に、自分の仲間が聞いている可能性を示して、カサンドラは動揺を誘うことにした。


「戦う前に周辺10kmの探知は済んでいる。他の魔人が潜んでいる可能性はない」


「っっっ!?」


 動揺させるつもりだったカサンドラだが、逆に自分が動揺することになった。

 周辺10kmというとんでもない範囲の探知能力だ。

 それだけの範囲を探知するには、相当な魔力と魔力操作力が高いということだ。

 それを、成人していない人間ができるなんて思いもしなかったからだ。


「……とんでもない化け物ね」


「魔人に言われるのは何とも言えないが、誉め言葉として受け取っておくよ」


 大半の人間からしたら、魔人こそが化け物だ。

 しかし、そんな魔人から化け物扱いされたことに、伸は笑みを浮かべて受け入れ、刀をカサンドラに向けて構えを取った。


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