第204話
「……ぐっ、……ぐふっ!」
体中に深手を負い、大量の血を流すエラズモ。
片腕・片足も斬り飛ばされ、立ち上がることすらできない。
しかし、即死していないというのは、さすが魔人の生命力の高さと言ったところだろうか。
「そりゃ、あれだけ速度を上げてりゃ、急には止められないよな」
カサンドラが、4つの強力な魔力ブーメランを自由に操作できるといっても、込められている魔力が多いため、急激な方向転換や停止できるとは思えない。
案の定、自分をエラズモごと仕留めようと考え、これまで以上に速度を上げていたため、急遽放り投げられたエラズモを回避することができず、このような結果になった。
「っ!? 貴様っ! まさかわざと……!?」
「まあな!」
簡単にエラズモのタックルを受けたと思ったが、伸の口ぶりからカサンドラは嫌な考えが頭に浮かぶ。
自分たちがエラズモにごと伸を仕留めようと考えていることを予想し、その策を利用しようと考えたのではないかということをだ。
そのことを確認しようとするカサンドラだが、自分の考えが正解してほしくないからか、最後まではっきりと言い切れない。
しかし、それでも伸は何が言いたいのかを理解し、カサンドラの問いにどや顔で返答した。
「おのれ……!!」
自分たちの策に嵌めたと思っていたが、まさかそれを人間の、しかも子供に逆手に取られるなんて想像もしていなかった。
そのため、カサンドラは自分の考えが甘かったことに歯ぎしりをする。
「……ぐっ、ぐぅ……」
「…………」
“ズサッ!!”
片腕・片足を失い、全身から大量出血をしている状態でも死なないエラズモは、苦しみの声を漏らす。
そんなエラズモを見て、カサンドラは無言でブーメランを放つ。
そのブーメランは伸ではなくエラズモへと向かい、彼の首を斬り落とした。
「……部下思いなんだな?」
「……フンッ!!」
エラズモの先ほどの怪我では、回復魔術ができなければ助けられない。
しかし、自分は使えないし、付近に回復魔術が使える魔人もいない。
そのため、これ以上苦しまなくて済むように、カサンドラはエラズモを介錯をしてあげたのだ。
そのことに気付いた伸は、魔人でありながら見直すような発言をする。
こうしなければならない状況を作り出した本人に見直されても不快でしかないないため、カサンドラは鼻を鳴らして伸を睨みつけた。
「どうする? このまま戦う気か? はっきり言って、遠距離からのブーメラン攻撃だけでは俺には通用しないぞ」
伸が手こずっていたのは、エラズモの接近戦に対処しながらカサンドラの遠距離攻撃にも警戒しなければならなかったからだ。
邪魔だったエラズモが死んだ今、カサンドラの遠距離攻撃だけに対処するだけで良くなった。
余計なことに意識を向けなくても良くなれば、カサンドラのブーメラン攻撃はそこまで脅威ではない。
そのため、無駄に体力を使うことなく戦いを終わらせるため、伸はカサンドラに諦めるように促す。
「フッ! 何? 降参しろとでも言いたいの?」
「あぁ……」
伸の言葉に、カサンドラは鼻で笑う。
魔人の自分に情けをかけるようなことを言ってくるなんて、なんとも甘っちょろい。
そんなところだけ年相応ということだろうか。
しかし、そんな伸に対し、カサンドラは更に怒りがわいた。
「冗談でしょ? 降参したら他の魔人の情報を聞き出すために拷問にかけたり、情報を引き出した後は人体実験の末路しかないじゃない!」
「……そりゃそうだな」
柊家(というより伸)のお陰もあってか、良くも悪くも国民の魔人への脅威に感じる度合いは低くなっている。
しかし、魔人が危険な生物だということは変わりはない。
もしも他の魔人の情報を持っているというのなら、それを手に入れて早急に対処しなければならないし、今後のことを考えて、政府は魔人の生態を研究するべきだと考えだろう。
そんな立場になると分かっているのに、素直に降参するわけがない。
カサンドラの言葉を受け、自分が同じ立場ならと考えた伸は、降参なんてするわけがないと納得した。
「それに……」
「んっ?」
まだ何かあるような様子。
そんなカサンドラの態度に、伸は訝し気な表情に変わる。
「私にはまだ奥の手があるわ!」
「何を……?」
台詞の言い終わりと共に、上空から伸目掛けて4つのブーメランが降り注ぐ。
タイミング的に破壊することはできないが、回避することは難しくない。
そのため、伸はバックステップを図ることでその攻撃を回避した。
「ハアッ!!」
「っ!?」
攻撃を躱すために、カサンドラからかなり離れることになってしまった。
それこそが狙いだったらしく、カサンドラはその間に何かをし始めていた。
「……まさか、変身……?」
「正解!」
人の姿から魔物の姿へと変身したカサンドラの肉体が、またも変化を遂げる。
二度の変身ができるなんて予想していなかったため、伸は驚きの表情へと変わる。
そんな伸の呟きに対し、カサンドラは笑みを浮かべつつ返答したのだった。
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