第203話

「くっ! このっ!」


「…………」


 両手の爪による攻撃を放つエラズモ。

 最初のうちはエラズモ独特のリズムに戸惑いを覚えていた伸だったが、それに慣れた今では余裕をもって回避する。


「フンッ!!」


「ぐっ!」


 左右から回転の速い攻撃が襲い掛かるが、伸には全く通用しない。

 そのせいか、エラズモの中で力みが生じる。

 僅かに振りが大きくなり、空振りのあとにできた僅かな隙を狙い、伸は反撃をおこなう。

 威力より速度を重視した片手での袈裟斬り。

 その攻撃を、エラズモは慌てて左手の爪で防ぐ。


「シッ!!」


 伸とは違い、こちらはもう片方の爪による攻撃が可能。

 その考えから、攻撃を防いだエラズモは、すぐに伸に向かって突きを放つ。


「フッ!!」


「うぐっ!!」


 顔面目掛けて飛んできた突きを、伸は一歩前に出つつ首を傾けるだけで躱し、そのままエラズモの腹に右足の膝蹴りを打ち込んだ。

 攻撃を受けたエラズモは、苦痛に顔を歪め、腹を抑えて前のめりになる。


「っっっ!?」


 前のめりになったところに、エラズモの顔面を蹴り上げるように伸の左足が迫る。


「くっ!!」


 直撃を受けるわけにはいかないため、エラズモは必死にバックステップすることで伸の攻撃を回避した。


「っと!!」


 慌てて攻撃を回避したエラズモの体勢は崩れている。

 追撃も考えた伸だったが、予想通りに邪魔が入る。

 カサンドラのブーメラン攻撃だ。


「ムンッ!!」


“パキンッ!!”


 最初のうちは弾くことしかできなかったカサンドラの魔力ブーメランによる攻撃だが、何度か弾いているうちに脆い部分を見分けることができるようになってきた。

 そのため、エラズモの邪魔がない状態で飛んできた魔力ブーメランを、伸は刀を振って破壊した。


「くっ!! こいつ、この短期間で……?」


 防戦一方だったはずなのに、戦闘が続いていくうちに自分たちを押し始めている。

 それはつまり、伸が成長しているということを証明している。

 このまま成長を続けていくとなると、自分たちが負ける未来しかない。

 嫌な予想が頭をよぎり、カサンドラは焦りを覚え始めた。


「こうなったら……」


「っ!!」


“コクッ!!”


 嫌な予想はエラズモもしている。

 そのため、カサンドラの方へ決意の視線を向ける。

 アイコンタクトでそれを理解したカサンドラも覚悟を決め、エラズモに頷きで返した。


「ハァッ!!」


「くっ!!」


 カサンドラは得意の魔力ブーメランを放つ。

 それも4つ。

 ここまでの戦いで分かったことだが、破壊されない限りカサンドラが自由自在に操れるのがこの数なのかもしれない。

 4つの高威力ブーメラン攻撃に、伸は破壊よりも防御を優先するしかない。


『…………』


 カサンドラのブーメラン攻撃に対処する伸。

 エラズモはそんな伸を黙って見つめる。

 隙ができるのを待つかのように。


『今だっ!!』


「っっっ!?」


 4つのブーメランに対処する伸を見つめ、隙を窺うエラズモ。

 その隙を見つけ、躊躇うことなく一気に伸との距離を詰める。


「くっ!」


「ぐあっ!!」


「っっっ!?」


 何とか1つのブーメランを破壊し、余裕が生まれた自分へと接近してくるエラズモに気付いた伸は、咄嗟に片手で刀を振り下ろす。

 片手だからこそ威力は低い。

 しかし、斬られれば大量の出血を伴う。

 威力が低いとはいいつつも、受ければ致命傷になりかねない攻撃だというのにも関わらず、エラズモは躊躇うことなく突っ込んでいく。

 左肩に深手を負わされてもだ。

 そんなエラズモの考えが分からず、伸は戸惑いの表情に変わる。


「今ですっ!!」


「……ハァッ!!」


 左肩に深手を負い、はっきり言って使えない。

 そんな状態になりつつも、エラズモは伸に片腕でタックルをかます。

 それに成功したエラズモは、カサンドラに向けて声を上げる。

 何を言いたいのかを理解しているカサンドラは、エラズモに返事をすることなく、全力の魔力ブーメランを伸に向かって放った。

 今までで最強最高の魔力ブーメラン。

 それが伸と、伸に抱き着くエラズモに向かって飛んでいく。

 エラズモがカサンドラに向かって言っていたのはこのことで、自分もろとも斬り殺して構わないということだ。

 言葉に出さなくてもそのことをアイコンタクトで理解していたカサンドラは、その考え通りに行動する。

 覚悟を決めていたエラズモの思いを受け入れ、カサンドラは2人まとめて始末する決意を決めた。


「なるほど……」


 自分に抱き着いているエラズモ。

 そして、自分目掛けて放たれた魔力ブーメラン。

 そのことから、伸はエラズモもろとも自分を始末するつもりなのだと考える。


「このっ!!」


「なっ!?」


 肩に深手を負ったことにより、エラズモは片腕しか使えなくなっている。

 そのため、タックルも片腕によるもの。

 しかし、伸は片腕で抑えきれる存在ではない。

 自分を抑え込んでいるエラズモの右腕を掴み、ねじるようにして体勢を変化させた。 

 あまりにもあっさりと体勢を変えられたため、エラズモは驚きの声を上げる。


「ほぅりゃっ!!」


「っっっ!?」


 体勢を整えた伸は、そのままエラズモを投げ飛ばす。

 飛んでくるカサンドラのブーメランに向けてだ。


「ギャーーーッ!!」


 伸に向かって直進してきていた4つの魔力ブーメラン。

 それに向かって放り投げられたエラズモは、その魔力ブーメランを一身に受けることになった。

 カサンドラのブーメランをその身に受け、エラズモは痛みに悲鳴を上げて、全身を斬り刻まれた。


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