第198話
「あの……」
「先輩……」
夏休みに入り、柊家の仕事に参加することにした伸。
彼と共に森川家の正大と上長家の麻里も参加しており、彼らは昨日に続き魔物の討伐をおこなっていた。
昨日と同様に順調に進んでいた魔物討伐だったが、途中からある異変に気付いた正大と麻里が表情硬く伸に話しかけてきた。
「なんだ?」
伸の中で2人が何を言いたいのか分かっている。
そのうえで、伸は2人に何が聞きたいのかを求めた。
「この状況って……」
「あの時同様まずいのでは……?」
「そうだな……」
正大や麻里に問いかけたのだが、綾愛と奈津希が代わりに問いかけてくる。
彼女たちも、今の状況に危機感を抱いているからだろう。
4人が抱いている危機感。
それは、以前にあったゴブリンの大量繁殖した時のような嫌な感覚が、今日調査する森の中に広がっているからだ。
「……あの時より、マズいかもな……」
「「「「……えっ?」」」」
4人の祇園への返答として、伸は言葉を呟く。
その内容に、4人は揃えたように戸惑いの声を上げた。
ゴブリンの大繁殖だってとんでもないことだというのに、それ以上に良くない状況なんて何があるというのか想像できない。
「5……いや、6体だな……」
「……な、何が?」
急に数を数える伸。
それが何を示しているいうのか。
聞きたくはないけれど、綾愛は思い切って問いかけることにした。
「……魔人の数だ」
「「「「っっっ!?」」」」
伸の答えに、4人は驚きで声が出なかった。
魔人の出現、しかも伸が言った通りなら6体も。
こんな人気のない山奥にそれだけの数の魔人がいるなんて、どう考えてもおかしい。
「狙いは柊・正大・上長の誰か……」
名前を言った順に伸は目を向ける。
この3人は、名門と呼ばれる柊家・森川家・上長家の者たちだ。
魔人がこの大和皇国を手に入れようと考えるならば、名門家の者たちを排除するために動くのは当然だからだ。
「まぁ、柊だろうな……」
魔人に狙われるとなると、この中で一番可能性が高いのは綾愛だと、伸は自分の考えを述べる。
「年末の件がありましたもんね……」
「この数年の柊家の躍進を考えれば、仕方ないかもしれません……」
伸の考えに、正大と麻里は納得しつつ呟く。
正大の言うように、去年の年末の対抗戦に出現した魔人の集団と闘い、柊家は更に株を上げることになった。
その件があるからこそ、魔人が柊家を狙っていてもおかしくない。
それだけでなく、麻里の言うようにここ数年柊家は魔人を何体も討伐しているため、その恨みも加わっているのかもしれない。
「まぁ、綾愛ちゃんも危険だけど、新田君も気を付けた方がいいんじゃない?」
「……俺も?」
伸たちが綾愛の心配をしているところで、奈津希が伸にも注意を促す。
柊家の一人娘の綾愛が気を付けるののは当然だが、どうして自分までなのか。
その理由が分からず、伸は首を傾げる。
「だって、柊家の婿殿なんだから……」
注意を促した理由。
奈津希はそれをニヤリとして説明する。
「……そ、そうよ……」
「……そうか」
奈津希の言葉に、綾愛は顔を真っ赤にして肯定する。
柊家が狙われているということは、婚約者である伸も狙われている可能性もあるということだ。
綾愛の父の俊夫が世間に公表したため、伸は綾愛の婚約者ということになっている。
娘に甘い柊家の当主がそんなことをした理由は、伸という大和皇国最強の魔闘師を引き入れるためという思惑があってのことだ。
伸としても、祖父の実家である鷹藤家に取り込まれるくらいなら、他の家にという思いがあったため、その思惑も全然気にしていないし、むしろ今の柊家のことを考えたらありがたいという思いも持っている。
つまりは、WinWinの関係だ。
綾愛も、昔の誘拐されかけたところを助けてくれたのが伸だということが分かってからは、伸への恋愛感情が抑えきれなくなりつつある。
そのため、この関係を逃さないよう事ある事に婚約者だと主張するようになっている。
思惑
というより、嬉しい気持ちが高まっている。
「「…………」」
少し離れた周辺から嫌な空気が流れているというこんな状況だというのに、伸と綾愛が見つめあう変な空気が流れる。
そのことに、正大と麻里はどうツッコんでいいか分からず、声を出すことができないでいた。
はっきり言って、こんな状況でそんな甘ったるい空気を出すなという思いだ。
「……4人は背を合わせ、自分たちの身を守ることだけ考えていてくれ。俺がなんとかする」
「「「「りょ、了解!」」」」
魔人を6体。
はっきり言って、数は少なくともゴブリンの大繁殖以上に危険な存在に周囲を囲まれている状況だ。
そんなの相手に一人でどうにかしようなんて、100%あり得ない。
なのに、なんでか分からないが、4人は伸の指示に抗うことができず了承した。
「さてと、頑張るか……」
全部で6体の魔人。
それを最悪自分一人でどうにかするしかない。
それを理解しつつ、伸は密かに内心気合を入れていた。
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