第197話
「道康!」
「は、はい!!」
突然現れた義康は、テレンシオに目を向けたまま道康に声をかける。
どうして明後日ここに来ることになっていた祖父がいるのか。
敵であるテレンシオ同様、道康も戸惑っている。
しかし、そんな戸惑いを吹き飛ばすような義康の響き渡る声に、道康は思わず返事をした。
「お前は別荘の方へ行け!」
「は、はい!!」
聞きたいことは色々あるが、祖父の言うことだ。
道康は、その指示に素直に返事をする。
逃げるのではなく、使用人たちを助けに行けとも聞こえたからだろうか、道康は義康の指示に従って、すぐさまその場から移動を開始した。
「……チッ!」
道康が移動を開始したことに、テレンシオは舌打ちする。
本当は追いたいところだが、義明に阻止されることは間違いない。
片腕を失った今、義明に隙を与えるわけにはいかない。
そのため、テレンシオは道康のことを見逃すしかなかった。
「康則! お前は回復だ」
「えっ!?」
回復したいのは山々だが、自分は回復魔術を使えない。
この場で安静にしていろと言うことなのだろうかと、康則は疑問の言葉が口から出ていた。
「康則様!」
「こちらへ!」
「おぉっ!」
康則の疑問はすぐに解消される。
鷹藤家の回復担当の魔闘師たちが現れたからだ。
彼・彼女らが現れたことで、康則は義康が単独でこの場に来たのではないことを理解した。
道康を別荘の方へ行かせたのも、恐らく鷹藤家の傘下の者が別荘に向かっているからだろう。
父のことだから、道康を別荘の使用人を助けに行かせるとしても、何かしら理由があるのだと分かっていても、詳細が分からなければ安心できない。
しかし、傘下の者らと共に、使用人たちを救わせるために道康を行かせたのだと分かり、康則は安堵の声を漏らした。
「くっ! どうして……!?」
康則の回復を始める魔闘師たち。
義康のみならず、鷹藤傘下の魔闘師たちが出現したことに、テレンシオは戸惑いの言葉を呟く。
それもそのはず。
侵入させた部下の魔人から、義康が今日この場に来るなんて情報は入っていないためだ。
もしも義康が来ると分かっていれば、もっと早く康則たちへ襲撃を加えていたし、周囲への警戒も強めていただろうから、片腕を失うようなことにはならなかっただろう。
「こいつはお前の仲間だろ?」
「っっっ!?」
義康はスマホを取り出し、写真をテレンシオに見せる。
その写真には、テントウムシのような羽を生やした魔人の死体が映し出されていた。
その写真を見たテレンシオは、報告が来なかった理由を理解した。
「気づかれたか……」
テントウムシの魔人。
それが鷹藤家に侵入させていたテレンシオの部下だった。
どんなに見た目を鷹藤家関連の人間に変えても、中身まではそうはいかない。
思わぬところでボロが出て、違和感を持たれることはありえなくはない。
テントウムシの魔人も今日の作戦が成功したら、鷹藤家から抜けるように指示をしていたのだが、よりにもよってその前にバレてしまうとは思わなかった。
「だいぶ口の軽い魔人だったな。捕えて質問したらペラペラ話してくれた」
「チッ! あの野郎!!」
今度はスマホの動画を見せながら義康は説明する。
その動画には、義康に向かって今回の作戦のことを説明しているテントウムシの魔人が映っていた。
義康本人に魔人だということがバレ、何とか生き残るために命乞いでもしたのだろう。
その動画を見たテレンシオは、もうこの世にいないテントウムシの魔人に怒りを露わにした。
諜報員として鷹藤家の中に潜り込ませたのだが、人選を間違えたようだ。
話したところで、義康が魔人を生かしておくわけないことぐらい、考えればわかることだというのに。
「どうやら柊家の方にも魔人が送り込まれているようです!」
自分たちを殺すつもりでいたから口を滑らせたのだろうが、この情報は柊家に貸を作ることができる。
そのため、魔闘師たちの回復魔術の治療を受けつつ、康則は父に自分の手に入れた情報を知らせた。
「あぁ、一応知らせておいたが、あちらも気付いていたようだ」
「何だと!?」
康則はテレンシオから知ることができたが、義康たちはテントウムシの魔人から情報を仕入れた。
その中には、柊家の方にカサンドラとかいう魔人が動いているという情報だった。
康則同様、義康も貸を作るために連絡を取ったのだが、柊家はもう情報を仕入れていた後で全くの無駄だった。
しかし、その話はテレンシオにとっては驚きだ。
自分だけでなく、カサンドラの方まで作戦に支障が出ているかもしれないからだ。
「別荘の方には
言い終わると、義康はテレンシオに刀を向ける。
「……不意打ちで片腕斬り飛ばしたからって調子に乗るなよ!」
上から目線に聞こえる義康の発言に、テレンシオはこめかみに血管を浮き上がらせる。
「貴様のような老いぼれなんぞ、片腕で充分だ!」
こう言って、テレンシオは自分に刀を向ける義康に向かって、片腕で持った槍を構えた。
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