第193話

「ハッ!!」


「っと!」


 刀を抜いた康則は、すぐさまテレンシオに斬りかかる。

 テレンシオは、2mほどの長さで先端が2つに分かれた、いわゆる二叉の槍でその攻撃を受け止める。


「良い斬撃だ」


「くっ! こいつ……」


 攻撃を受け止められた康則は、鍔迫り合いのような状態になる。

 魔力を纏って身体強化をおこない、力を込めて押し込もうとするが、テレンシオはびくともしない。

 見た目はそんなに筋肉がついているように見えない青年だが、そこは魔人だからなのだろう。

 相当な力を有しているようだ。


「このっ!!」


「うぉっ!」


 力勝負では少々分が悪い。

 そう判断した康則は、すぐに鍔迫り合いの状態をやめ、連撃主体の攻撃へと変化させた。

 互いが持つ武器の性質上、距離を取ると間合いが広い槍の方が有利になる。

 そうならないように、刀が有利な距離で戦うためだ。

 距離を縮められたテレンシオは、康則の狙い通り防戦一方になった。


「チッ!」


「っ!?」


 距離が近いと康則の方が有利。

 このままでは良くないと、テレンシオは一旦距離を取るために行動を起こすことにした。

 槍を振り上げ、地面に向けて振り降ろした。


“ズンッ!!”


「なっ!?」


 追撃をするためにテレンシオに迫っていた康則だったが、急遽それを停止せざるを得なくなった。

 槍を刺した地面が隆起したためだ。

 このまま直進すれば、いきなり現れた壁に激突する。

 それを阻止するために、康則は道康の近くへと移動した。


「フゥ~……」


 康則が距離を取ると、できたばかりの壁が崩れ落ちる。

 厚く見えた壁だったが、どうやら張りぼてだったようだ。

 狙い通りに康則と距離を取ることができたテレンシオは、大きく一息吐いた。


「道康! お前は魔術で援護しろ!」


「わ、分かった!」


 力比べでは分が悪いかもしれなかったが、距離を詰めての攻防はこちらに分があることが分かった。

 ならば、またこちらに有利な距離での戦闘に持ち込むだけ。

 そのために、康則は道康に援護を求める。

 父の狙いを理解したのか、道康も自分のするべきことに集中することにした。


「ハッ!!」


「チッ! またか……」


 戦い方が決まったため、康則はまたも距離を詰めるべくテレンシオに接近する。

 そんな康則に対し、テレンシオは槍での迎撃を選択した。


「シッ!!」


「クッ!!」


 テレンシオの槍による突き。

 その鋭い攻撃に、康則は刀を使って防ぐ。


「セイッ!!」


「っ!!」


 突きを防がれたテレンシオは、今度は薙ぎ払うように槍を振ってきた。

 得物の長さによる遠心力が加わった攻撃。

 当たれば間違いなく骨が折れるため、康則は必死にしゃがみ込んで躱した。


「もらっ……」


「ハッ!!」


「おわっ!?」


 しゃがんだ康則に向かって、テレンシオは槍を振り下ろそうとする。

 そんなテレンシオに対し、魔力球が飛んできた。

 その魔力球を、テレンシオは攻撃を中断して回避に移る。


「くっ!? あのガキ……」


 テレンシオが魔力球の飛んできた方向を見つめると、そこには道康が立っていた。

 勝利を確信した自分の邪魔をしたのが道康だと分かり、テレンシオは不愉快そうに声を漏らした。


「シッ!!」


「おわっ!?」


 テレンシオの視線が道康に行ったその隙に、康則は体勢を立て直していた。

 そして、すぐさま攻撃を開始する。

 距離を詰めてしまえば自分の剣技の方が上。

 今度は逃がすまいと、康則は先程よりも速度を重視した連撃を放った。


「くそっ!」


 次々と繰り出される康則の攻撃。

 その攻撃に少しずつ反応が遅れるテレンシオ。

 とうとう反応が間に合わなくなり、テレンシオの服が少しずつ切り裂かれ始めた。


「ハァッ!!」


「ぐっ!」


 服を斬られ、苛立ちを見せていたテレンシオ。

 その苛立ちが更に判断を鈍らせる。

 康則のフェイントに引っかかり、上段からの袈裟斬りが入った。


「痛っ……」


「チッ! 浅かったか?」


 大振りの攻撃を受けたテレンシオは、左肩を抑えて距離を取る。

 服にはかなりの血がにじんでいるが、テレンシオの表情を見る限り大して痛そうに見えない。

 槍も普通に動かしているところを見ると、攻撃は深く入らなかったようだ。

 隙だらけになったところへの攻撃だったというのに、康則は仕留めきれなかったことを悔やんだ。


「どうやら、この姿のままでは分が悪いな……」


「っ!? 変身はさせんぞ!」


 人間の姿のままで勝つことは難しい。

 そのことを悟ったテレンシオは、小さく呟く。 

 その呟きから、魔人としての本性に変身する気なのだと康則は判断した。

 今の姿のままなら、自分たちでも追い込める。

 しかし、本性を現した魔人を相手にするのは危険だ。

 テレンシオがどんな魔物から進化したのか分からないが、魔物の能力次第では対応できないかもしれないためだ。

 そうならないためにも、康則は変身する時間を与えまいと、またも攻撃を開始しようとテレンシオに向かって走り出した。


「ムンッ!!」


「またかっ!?」


 距離を詰めようと走り出した康則を見て、テレンシオは槍を地面に打ち込む。

 先程のようにまた壁を作るつもりなのだろうと、康則は一直線にではなく弧を描きながらテレンシオへと迫った。


“ズーーーンッ!!”


「なっ!?」


 壁は壁でも、テレンシオを中心にしたドーム状に壁が出来上がる。

 それもかなり強固な壁だ。


「しまった!!」


 簡単には破壊できそうにないドーム状の壁ができたことで、テレンシオに時間を与えてしまうことになる。

 その時間を利用して、テレンシオは変身するつもりのようだ。

 気づくのが遅く、変身を止めようもない状況になってしまい、康則は戸惑いの声を上げた。


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