第157話
「くそ……」
この大和皇国は8つの地区に分けられていて、官林地区と言えば鷹藤家、八郷地区と言えば柊家と言うように、地区を代表する名門家が存在している。
その8つの地区の1つ、
『何で俺が来た時に限って……』
上長家の現当主は、佳太の父である
魔闘師の卵である高校生の大会とはいえ、それぞれの地区にある国立学園の代表に選ばれるような選手は、将来有名な魔闘師になる可能性が高い。
そのため、他の地区の名門家に取られる前に、学園を卒業したら上長家の関連の企業に入ってもらおうと、青田買い目的で観戦に来ていた。
例年は、父の吉男が当主の仕事としておこなっていたのだが、ここ数年体調が良くなく、次期当主となる佳太が代わりに来るようになった。
それが
つまり、去年に引き続き、今年も魔人が出現するという最悪な状況になっているということだ。
『来年からは
父の代わりに来ただけなのに魔人出現率100%になるなんて、運がないにも程がある。
こうなってくると、自分は観戦に来ない方が良いのではないかとすら思えた佳太は、来年は弟の忠雄に任せた方が良いのではないかと、若干本気で思っていた。
「オラッ!!」
「ぐっ!!」
自分の不運にいつまでも悩んでいる時間はない。
魔人が、手に持つ剣で佳太に斬りかかってきたからだ。
クレイモアと思われる両手剣による攻撃を、刀で反らすことで回避する。
直撃は避けることはできたが、掠ったのか腕から僅かに血が流れた。
「この鼠野郎!」
その言葉の通り、佳太が相手にしているのは鼠の魔人だ。
180cm程の佳太と同じ位の身長をしていて、両手剣を武器とした戦闘が得意なようだ。
そんな鼠の魔人に対し、傷を負った痛みに腹を立てた佳太は刀で斬りかかる。
「っと!」
佳太の攻撃を、鼠の魔人はバックステップをして回避する。
『速く逃げてくれ……』
攻撃を躱されたが、佳太としては予定通りだ。
鼠の魔人にバックステップさせたのは、会場から逃げる観客から遠ざけるためだ。
満員の会場から観客全員を逃がすとなると、かなりの時間がかかる。
激しい戦闘をしようものなら、観客を巻き添えにしてしまう可能性が高い。
誰もが慌てて逃げているこの状況で、全員怪我無しというのは不可能と考えた方が良いだろう。
しかし、魔人によって怪我を負わされる人間は1人も出さない。
代理で観戦に来たとは言え、自分は上長家の次期当主。
その名に恥じないためにも、まずは人命救助が優先だ。
『ハァ~、ほんとにツイてないな……』
去年も観客の避難活動をおこなったが、今回は魔人との戦闘をしながら。
ランクアップした難易度に、佳太は鼠の魔人と睨み合いながら心の中で思わずため息を吐いた。
「ハッハーー!!」
「くっ!!」
馬の魔人による両脚から繰り出される蹴りの連打。
それを、康則は刀で弾いたりいなすことで、なんとか直撃を回避する。
「このっ!!」
「おっと!」
馬の魔人の蹴りの連打を防いでいた康則は、僅かな隙をついて反撃する。
下から振り上げられた攻撃に、馬の魔人はバク転をする事で回避をする。
「脚癖の悪い野郎だな……」
バク転をして距離を取った馬の魔人に対し、康則は思わず呟く。
そう呟きたくなるのも、康則がその連射性に手こずっているからだ。
先程のように隙を見て攻撃をするが単発でしかなく、完全に防戦一方と言ったところだ。
「俺はこれが武器なんでな」
康則の呟きに対し、馬の魔人は片足を上げて脛当てを手で叩く。
その言葉と仕草の通り、馬の魔人は完全に蹴り主体と言った攻撃を放ってきている。
膨れた大腿筋や下腿三頭筋を見れば、自信があるのも頷ける。
「面倒な……」
本来なら、この馬の魔人だけでなく兎の魔人も相手にするつもりでいた。
しかし、攻撃を防いだが吹き飛ばされて、援護を頼んだ柊家の娘から離されてしまった。
これでは、柊家の娘に兎の魔人の相手をしてもらわなければならなくなる。
魔人との戦闘経験があり、決勝で息子の文康に勝利して大会を2連覇したとはいえ彼女は高校生。
集団で戦った夏休みの時とは違い、単独で戦わせるのは危険すぎる。
さっさと目の前の魔人を倒して、兎の魔人の方も自分で請け負いたいところだが、予想以上に馬の魔人の蹴りが厄介なため、康則は思わず愚痴った。
“バッ!!”
「おっと! 行かせないぜ!」
「っ!!」
会話をして注意を向けた所で、康則は地を蹴る。
ノールックで綾愛の方へと移動しようとしたのだ。
しかし、康則が綾愛のことを気にしているのを気付いていたのか、馬の魔人はすぐに康則の進路を遮るように移動した。
邪魔をされたことと、魔人なんかに自分の心理を読まれたことを不愉快に思ったのか、康則は眉間に皺を寄せた。
「あの嬢ちゃんを助けに行きたかったら、俺を倒してからにするんだな」
康則の表情を見た馬の魔人は、挑発するように話しかけてくる。
更に怒りを沸かせることで、康則の剣を鈍らせようと考えたのだろう。
「フンッ! ならば早々に決着をつけてやる!」
康則は、その安い挑発に乗ってしまう。
こめかみに血管を浮き上がらせ、康則は馬の魔人に向かって地面を蹴った。
「ハーーーッ!!」
「シャーーーッ!!」
接近した両者は、連撃戦というような戦いを繰り広げ始めた。
お互いが自分の武器による連続攻撃を放つ。
しかし、両者共攻撃だけでなく防御のレベルも高く、どちらも相手の攻撃を躱しつつの攻撃を放ちあっている。
「チッ!」
「ツッ!」
相手の攻撃を躱しての攻撃とは言っても、至近距離での攻防。
直撃がないだけでお互い何発か掠っているため、両者共細かい怪我を負う。
それでも止まることはせず、両者共その攻防を続けた。
「っ!!」
「もらった!!」
脚による攻撃は片足を軸にして立つため、どうしても不安定になる。
その軸足が滑れば、当然攻撃の手(馬の魔人ん場合脚だが)を止めるしかない。
相手の攻撃が止んだのを見た康則は、チャンスとばかりに刀を握る手に力を込めた。
「っっっ!?」
チャンスを生かし、大ダメージを与えようと力を込めた攻撃を放とうとした康則だったが、僅かに視界の端に映った馬の魔人の動きに違和感を覚え、咄嗟に攻撃を中断した。
“ガキンッ!!”
「ぐっ!!」
強撃をしようと大振りになるのを待っていたのか、馬の魔人は
違和感に従って攻撃を中断したのは正解だった。
康則は刀の峰によって、ギリギリその攻撃を防ぐことに成功した。
「くそっ!! 反応の良い野郎だ」
脚による攻撃が主体の戦闘スタイル。
そう完全に思い込ませたところで、殴打による不意撃ち攻撃を放つ。
その一撃で均衡を崩すつもりでいたため、康則に防がれた馬の魔人は思わず声を荒げた。
「……本当に面倒な奴だ」
馬の魔人は、いつの間にか拳に鉄製の手甲を付けていた。
その違和感によって攻撃を中断していなかったら、直撃を受けて危ないところだった。
思った以上に厄介な相手に、康則はまたも愚痴るしかなかった。
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