第120話
「柊はまた1位か……」
全国の魔術師学園は、前期と後期に分かれるカリキュラムを取っている。
その前期の筆記テストが先日行われ、結果が出ていた。
1年の時もそうだったが、全教科の総合得点で上位50位以上の成績者の名前は、校内用のタブレットを使用すれば見ることができる。
その記載されたページを見て、伸は独り言を呟く。
2学年の成績1位は、去年から変わらず綾愛だ。
「杉山は2位と……」
2位も同様で、奈津希の名前が載っており、いつもと変わらない順位といったところだ。
「2人共相変わらずだよな……」
「あぁ……」
伸がタブレットで成績順位を見ていることに気付き、了が話しかけてくる。
筆記で学年上位なんて縁がないとあきらめている了としては、2人の成績を半ば呆れているように感じる。
「それよりも……」
「おい伸! お前ギリギリ入ってんじゃん!」
量と話している所へ石塚・吉井の2人も入ってきた。
2人が言ったように、今回の上位成績者の中に伸の名前も入っていたのだ。
『完全に予想外だったな……』
元々伸はかなり学力が高い。
今回の筆記テストも、真面目に解答すれば綾愛たちと競えるほどの点が取れたことだろう。
しかし、そんな事をして目立つわけにはいかないため、伸はある程度解答して、後は手を付けないようにした。
その方法でいつものように平均点を狙っていたのだが、今回は問題の難易度からみんな成績が良くなかった。
そのせいで、伸が上位に来るようになってしまったのだ。
「本当にギリッギリだけどな……」
伸の順位は上位50人中50位。
狙って取れる順位じゃない。
完全に不可抗力だ。
「……この成績なら、もしかして伸も選ばれるんじゃないか?」
「対抗戦の校内選抜にか?」
「あぁ」
伸の成績を見て、石塚と吉井は夏休み後にある校内選抜の話を始めた。
2学年の中で、魔術戦闘能力の高い8名が選ばれる。
去年は綾愛が優勝したことで少し霞んでしまったが、了も学園代表に選ばれ、大会で好成績を収めた。
その成績を考えると、校内から選抜される8名の中に今年も了が入るのではと予想されるが、石塚と吉井は伸も入るのではと考えているようだ。
「選抜は筆記より実技優先だ。了はともかくとして、俺は選ばれないだろ?」
伸の言うように選抜は実技の成績が優先される。
それに、筆記で上位に入ったと言っても50位。
その成績で選抜に選ばれるとは思えない。
「でも、鷹藤に勝ったじゃんか。だからもしかしたら……」
石塚と吉井の考えに乗っかったのか、了も伸の選抜入りの可能性があるのではと言い出した。
筆記より実技なのは事実だが、伸は鷹藤家の道康と試合をして勝利している。
そのことを評価に入れたら、実技面でも問題ないと判断される可能性があるため、あながちあり得ないことではない。
「道康は油断し過ぎたんだよ。それに、勝ったのはミモのお陰だ。大会では従魔は禁止だから、あの時のようなだまし討ちはできない」
魔術師同士の決闘では、従魔を使用することは禁止ではない。
従魔を使用しての戦闘というのも評価されているからだ。
しかし、対抗戦はあくまでも従魔の能力を必要としない生徒個人の戦闘能力を競う場だ。
道康と戦った時のようにミモを使うことはできない。
そうなると、道康戦の勝利が実技の評価に加点されることはないため、伸は自分が選ばれるようなことはないと3人に説明した。
「え~、マジかよ……」
「了に加えて伸まで選ばれたら面白かったのに……」
伸の説明で、石塚と吉井は納得したようだ。
そして、さっきまでの期待の笑みは消え、残念そうな表情へと変わった。
選抜入りなんてしたら、仲の良い友人からしたら何となく誇らしい気持ちになる。
それが2人ならなおさらだ。
しかし、伸の説明からその望みが薄いと知り、気持ちが半減したと言ったところだろうか。
「それに、今年は了が選ばれるか分からないぞ」
「えっ?」
「でも去年の成績からいって選ばれるんじゃないか?」
伸が期待が薄いのは仕方ないとして、了は去年の成績を考えれば選抜入りは濃厚のように思える。
そのため、石塚と吉井は伸の言葉に首を傾げた。
「このクラスには柊と杉山がいる。1クラスから3人選ばれるか分からないからな」
教師陣からすると、AからFの6クラスから1人ずつ出したいところだろう。
そうなると、Ⅽ組からばかり選出するようなことをするだろうか。
他のクラスにも、去年から実力を伸ばした者がいる。
もしも1クラスからは2人までとした場合。
了か杉山のどちらかが落とされることになるだろう。
去年の大会の成績から候補に挙がるのは必然だが、了は筆記の成績が良くない。
杉山は筆記で学年2位、実力もある。
成績と実力を考えると、了と杉山は大きな差がないように思える。
もしかしたら、杉山が選ばれて了が外されるということもあり得るだろう。
「……そうか? クラスの人数とか関係ないだろ」
「あぁ、単純に実力主義で選ばれると思うぞ」
「……そうだな」
全国の魔術学園の代表者による対抗戦の結果は、その学園の評価につながる。
そのため、学園としては今年も優勝者を出したいところだ。
ならば、クラスの人数なんて考えるのはナンセンス。
強い者がいれば、クラスや人数なんて関係なく選出するのが通常だろう。
率直に出た石塚と吉井の言葉に、伸も納得した。
「柊はともかく、残りの代表枠を手に入れるのはかなり大変だ。了は去年同様夏休みのが重要だぞ」
「あぁ……」
伸の忠告に、了は頷く。
今年も対抗戦に出場するためには、伸の言うように夏休みの成長が重要になることが分かっているからだ。
去年の夏休み。
自分では何がきっかけだったか分からないが、夏休みの間に急激に成長することになった。
苦手だった魔力の放出も、戦術に使える程度まで成長した。
しかし、成長しているのは去年校内選抜に選ばれた者たちも同じだ。
彼らに負けないように成長しないと、今年も対抗戦に出場することなんてできないだろう。
「まぁ、がんばれよ」
「今年も俺たちが応援してやるからよ」
「あぁ」
遠距離攻撃が得意な2人からすると、大会のルールではかなり不利。
そのため、石塚と吉井には対抗戦なんて縁がないことだ。
なので、了に期待するしかない。
2人の立場になれば、自分も同じ気持ちになるだろう。
彼らの思いも胸に今年もがんばろうと、了は再度心の中で気合いを入れた。
◆◆◆◆◆
「お待ちしておりました。ナタニエル様」
「あぁ……」
数人の魔人たちが集まる中、魔人のナタニエルが姿を現す。
その姿を見た魔人たちは、片膝をついて首を垂れる。
「さて……そろそろ始めるか」
片膝をつく魔人たちを一通り見渡すと、ナタニエルは不敵な笑みを浮かべた。
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