第62話
「おぉ!」
「了! 8人に入ったじゃん!」
魔術学園対抗戦に出場するための校内選考会。
その選考会に出場できる選手が、タブレットの校内情報のページ内にアップされた。
それを見た石塚と吉井は、テンション高く了の肩を叩いた。
了が選ばれる可能性はあったが、ペーパーテストの点数に不安があり難しい状態だった。
それが何とか上位8名に選ばれ、友人として嬉しくなるのは当然だろう。
「あぁ……」
「何だ? 反応薄いな」
自分でもタブレットを見て確認する了は、石塚と吉井の言葉にたいした反応をすることなく返事をする。
上位8名の中に選ばれたのだから、もっと喜ぶと思っていたのだが予想外の反応だ。
以外に思った伸は、タブレットを見つめたままの了へと問いかけた。
「いや、選ばれるとは思っていなかったから」
「何だ。ただ驚いてたのか……」
たいした反応しなかったのは、喜んでいない訳ではなくどうやら驚いて固まっていたようだ。
選手に選ばれるのは微妙な所だったため、了自身はそれ程期待していなかったのかもしれない。
それゆえに喜びより驚きが勝ってしまい、喜ぶタイミングを逃したと言ったところのようだ。
「俺と吉からすれば大したことないが、魔力の放出系もとりあえず使えるくらいにはなってる」
「それに元々の身体強化も上手くなっているし、いい線行くんじゃないか?」
選ばれて驚いているだけの了とは違い、石塚と吉井はどこまで行けるかという話へと変わっていた。
了自身は分かっていないが、伸の操作魔術によって魔力コントロールが一気に上達し、以前は苦手だった魔力を放出して戦う方法も得ることができた。
それだけでも嬉しいことだが、魔力コントロールの上達により、元々得意だった身体強化の方も上手くなっている。
これまで以上に魔力を消費する事無く身体強化ができるようになり、長時間戦えるようになっている。
それらを考えると、2人の言うように上位と行ける可能性は十分にあり得る。
「対抗戦に出るまでとなると、決勝まで柊とは当たりたくないな」
「そうなると、トーナメントの運次第だな」
国内にある8つの国立の魔術学園から、それぞれ選ばれた魔術師たちが競い合う魔術大会に参戦するための選考会。
1つの学園で出場できる1年生は2名。
その2名に選ばれるには決勝に進出するしかない。
トーナメントによる選出方法になっているため、了の言うように優勝候補の綾愛と同じ山に入ると、決勝に行くにはかなり難しくなる。
誰がどっちの山に入るかは、今日の放課後に集められた時にくじ引きで決めることになっている。
その時に引いたくじ次第のため、伸の言うように了自身の運に期待するしかない。
「あっ! 渡辺たちまで入ってる」
「「「マジかよ!」」」
タブレットに表示されている選考会に選ばれた8人の名前を再度見て、石塚が反応した。
それを受けてタブレットに目を落とすと、石塚の言った通り知った名前を見つけた。
B組の渡辺信也・D組の千倉幸代・D組の佐野守・F組の大橋博という4人の名前に、伸たちは渋い表情へ変わった。
入学して早々に伸たち4人が揉めたメンバーが、4人とも選出されていたのだ。
「あれから少しは大人しくなったんだけどな」
伸たちとの4対4のチーム戦に敗北した渡辺たち。
勝ったのはたしかだが、実は入試の成績の良かった実力のある者たちだ。
以前のようにワーキャー言われなくなったが、成績はキープしていたようだ。
今度はソロとは言っても、また戦うことになる了は面倒そうな表情へと変わった。
「あっ! 選手に選ばれたってことは、了は文化祭の手伝い免除か」
「羨ましい!」
選考会と文化祭は合わせて3日かけて10月の後半におこなうことになっている。
まず選考会を2日使っておこない、その後に文化祭がおこなわれる。
選考会に選ばれた選手は、特訓に当てる時間を与えるために文化祭の手伝いが免除されることになっている。
クラスの代表なのだから、どの組も暗黙のルールとしてそのような方法をとっている。
魔術学園の学園祭は、選考会の方が人気があるためいまいちやる気のない生徒が多い。
しかし、その日が近付くと何故かやる気になるもので、伸たちⅭ組の者たちもやる気になっている。
ただ、石塚と吉井はそうではないらしく、やる気がないままのようだ。
「あれっ? セコンドもだっけ?」
「あぁ!」
「「ずりぃ!」」
文化祭の準備の免除は選手だけでなく、選手を手伝うセコンドも入っている。
了のセコンドに着くことになっている伸は、それによって手伝わなくていいことになる。
吉井の問いに返答すると、石塚と吉井は声を揃えて口を尖らせた。
「まぁがんばってくれたまえ!」
「うざっ!」
「了のお陰だろうが!」
伸は調子に乗って石塚と吉井に上から目線の言葉をかける。
その言葉に、2人は文句を言う。
吉井の言うように、伸が準備の手伝い免除になったのは了のお陰だ。
伸に上から言われる筋合いはない。
「まぁ、伸はともかく、了はがんばれよ!」
「応援してやっから!」
「おう!」
「ともかくって……」
いつもつるんでいる友人が選手に選ばれたのだから、当然応援したい。
選手に選ばれた了に対し、石塚と吉井は笑顔で声をかけた。
その言葉に、了も笑みを浮かべて返答した。
流れとは言え自分だけ外されたような雰囲気に、伸は小さく文句を呟いたのだった。
「ところで、うちのクラスってたしか喫茶店だっけ?」
「あぁ、ベタだよな」
伸たちは手伝わないが、石塚と吉井は手伝わなければならない。
クラスの話し合いにより、Ⅽ組は喫茶店をやることになっている。
他のクラスも似たり寄ったりの出し物になっている。
「魔術師学園なら他と違って魔術で火が使えるから普通に料理出せるしな」
普通の高校の文化祭などだと、火事が怖いために火を使うことが制限されるという話だ。
火が使えないと食中毒が心配なため、料理も制限される。
それに引きかえ、魔術学園なら火事が起きても魔術ですぐ消火できるというのもあって、食材などの制限がない。
教室を使った普通の喫茶店というのがベタな出し物になっているのだ。
「うちのクラスで料理できる奴っていんの?」
「「俺たち」」
「「…………」」
喫茶店なら、料理も何品か出すことになる。
そうなると料理ができる者が必要だ。
しかし、そんな事できる人間がⅭ組にいるか分からない。
そう思って了が問いかけると、石塚と吉井は声を揃えて返答した。
意外な返答に、伸と了は無言で固まった。
「何だよその反応!」
「いや、お前ら完全に料理なんて出来そうにないから」
伸と了の反応に、石塚が反応する。
伸たちとすれば、客商売に向いていないような2人が料理を作れるなんて思っていなかった。
「俺の家は喫茶店だぞ」
「そこで俺もたまにバイトさせてもらってる」
「マジかよ。その店大丈夫かよ」
石塚と吉井は実家がそんなに離れていないというのは知っていたが、半年近く一緒にいるが、伸と了は初めて聞いた。
不良とまではいかないが、学園では問題児っぽい印象の2人だ。
それが喫茶店で働いているなんて、了は店が心配になって思わず呟いた。
「……じゃあ、大丈夫そうだな」
本当にこの2人が料理できるか不安だが、実家が喫茶店なら何の問題もないだろう。
そのことが知れたことで、伸は安心して2人に文化祭の方は任せることにした。
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