第8話 世界観測協会2
「黒石さん、説明ありがとう。メイちゃん、君が知ってることを教えてくれますか?事が事だけに隠し事はしないでくれると助かるんですけど」
「あの家と契約はしていますが流石にこの件でお嬢様を庇う気などありませんよ。私だってできれば神の怒りを回避したいですし」
神の怒り?よくわからないけど糞ビッチも女神だろ?上司に怒られる的な?
「あのー、質問したいんですけど大丈夫ですか?」
「黒石さん、すみませんが質問は後のほうが助かるかな。今は現状を確認したいので。黒石さんには後でしっかり説明しますからその時にいくらでも質問してください」
「あっ、はい。なんかすいません…」
「あなたが謝る必要はないよ、全てこちらが悪いのだから。ではメイちゃん、聞かせてもらえるかな?」
ここは黙ってたほうが良さそうだ。
「はい、ほぼお嬢様の言い訳になるので重要な箇所を言いますね。まず1、時間ギリギリまで素敵な勇者に夢中でコウ様のことを忘れていた。2、コウ様が酷い怪我をしているのは自分に発情して襲いかかってきたから反撃した。3、コウ様が転移したのは事故だからしょうがない。…といった感じでしょうか。自分で転移させておいて事故も糞もないでしょうに。まぁ、後は死んだら面倒臭い、ママにどうにかしてもらうなどと言って、さっさと新しい勇者の様子を見に行きましたよ、後のことは私に丸投げです」
あいつ本当に女神なの?
俺の想像する女神のイメージと全然違うんだけど。
「…それでメイちゃんが急いでここに帰還が間に合うか確認に来たわけだね。わかった、話してくれてありがとう」
話が一段落ついたところでニアちゃんが手を上げた。
「あー、ちょっといい?糞ビッチの転移記録なんだけどさ。池田薫に1人用転移陣を使用って記録されてるんだよね。システムの記録が間違ってないならマジで事故っぽい、ビックリ」
『はっ?』
支部長とメイさんが口を開けて唖然としてる。ポカーンって感じだね。
「神のシステム側のミスなんてありえない…本当なら前代未聞ですよ?ニアちゃん、ちょっと確認させて」
「ほい、みてみ」
支部長がタブレットを確認してる中、俺の横のメイドさんがまたぶつぶつ言い始めた。
「…嘘だろ?小範囲転移装置を使ったんじゃあない?前に小範囲転移装置でイケメン2人ゲット!3P最高!なんて言ってたじゃん。またイケメンとの3P狙いしたら一緒に釣れた男がイマイチだったのを事故って言ってたんじゃねーのかよ?」
メイさん、自分がイマイチなのは知ってる。
でもあなたに言われるのはちょっとばかり悲しいッス。
そして糞ビッチはやっぱり糞ビッチだったようだ。
セックスはスポーツとか言ってそう、俺とは相容れないな。
「本当だ…。仮に1人用転移でも範囲転移と同じように黒石さん達に対応していれば問題は…ルミーナ嬢側にあるか、二人一緒に説明して黒石さんが帰還したがれば本命の人物も一緒に帰還する可能性が…。すぐに連絡せず黒石さんが50時間経過したことはルミーナ嬢に責任はある。だがシステムのミスが大元の原因の場合は神の怒りはどうなる…?クソ!すぐに協会に連絡していればシステムの異常で済んだものを!」
支部長もぶつぶつ言い始めたし。
何を言ってるんだかわけわかめ。
「これからどーなんのかなんてわかんないんだし、まずこの人に説明したら?そっちのが重要じゃね?」
ニアちゃんから放置プレイ中のイマイチへの助け船。
俺的にはシステムや怒りの事より、自分がこれからどうなるのかのほうが重要なんですよ。
話の感じから予想すると、俺もう元の場所に戻れないんでしょ?
「そうですね…黒石さん、すみません。…少し取り乱してしまいました。では、遅れましたが黒石さんの現状についてお話しします。色々疑問に思うと思いますが、まずは一通り聞いてください」
「はい、お願いします」
「まず、ここは神界です。死後の世界という訳ではないですよ。もちろん黒石さんは生きてますので安心してください。ここは地球と異世界の間にある、神の住む場所と思っていただければ」
それはなんとなく予想はできてた。
異世界系の小説、漫画、アニメは好きなタイプだ。
それっぽい知識は多少はある。
自分がそうなるとは思ってもいなかったけど。
「黒石さんは地球からの転移者です。神から転移させられた訳ですね。神の使徒として異世界で働いてもらう為に。しかし、そうはならなかった。基本の転移の流れですが、まず地球からこの世界へ転移させた人間に、神の使徒になってもらう。その後に異世界へ送り、使徒として働いてもらう、ですね」
俺、転移してからほぼ放置プレイでしたからね。
イケメンは糞ビッチの使徒として異世界に働きに出たわけだ。
「転移者を神の使徒にするには条件があります。状況をきちんと説明し、転移者が使徒になることを心から納得した上で転送の儀式をする事です。無理に儀式をしてもシステムが認めず、転送装置は動きません。例えば嘘の説明をする、脅す、洗脳する等ですね」
え、儀式成功したってことはイケメンって洗脳されてたんじゃないの?
糞ビッチの狂信者って感じだったけど。
「必ずしなければならない説明はここがどこか、自分は何者か、自分の使徒になった場合のメリット、デメリット、どんな異世界で何をするか、ここに来てから50時間を過ぎると元の場所に戻れなくなる、これらを全て踏まえた上で48時間以内に使徒になるか元の場所に戻るか決めなければならない、決めれなかった場合強制的に元の場所に戻す、ですね」
…イケメンの野郎、使徒になったってことは全部知ってたんじゃん。
なのに俺を放置してギリギリまで楽しんでたんだねぇ。
死ねばいいのに。
「そして神は自分が呼び出した転移者に責任を持たなければなりません。使徒になることを望まず、元の場所に戻ることを望んだ転移者は50時間以内に協会に連れて行き、帰還装置を使用する。これを守らないと大変なことになります」
戻れなくなるっぽいのと神の怒りってやつかね?
「私達は神の怒りと呼んでいます。単純に、この世界の最上位の神が怒るんですよ。滅多にない事ですし、詳しくは私もわからないのですが。一応、日本支部で起きた過去の事例をいくつかお話しします。元の場所に戻ることを望んだ転移者が前提です。1、転移者を監禁、凌辱し50時間経過後、転移者と関わった全員が全身に10cmほどの杭がみっちり刺さった状態で発見されました。転移者は行方不明」
えぐいな、俺より悲惨な状況っぽいし気持ちがわからなくもないけど。
「2、転移者と口論の末、喧嘩になり誤って死亡させる。焦って協会に駆け込むも急にその場にいた全員の心臓が停止、死亡する」
無関係の人も巻き込むんかい。
最上位の神ざっくりしすぎだろ。
「3、転移者に拷問、洗脳をするも当然儀式に失敗。何度も繰り返す間に50時間経過する。転移者が最上位の神に力を与えられ凶暴化。呪詛の言葉を吐きながら暴れまわります。最終的に500人以上の命と引き換えに討伐されました。この転移者が記録にある中では一番の被害を出しました。この事件以降、恐怖からか神の怒りが起きることはずっとなかったのですが…」
「あー、俺って超危険物的な存在なんですね。すみません、俺に関わったばかりに」
「いえ、黒石さんは悪くない、お気になさらずに。呼び出した神に責任があるのです。それに今回の件ですが、システムの異常が原因の可能性が高い。こんなことは前代未聞なので神の怒りが起きるのか正直わからないのです。当然、ルミーナ嬢の黒石さんに対する仕打ちはとても許されるものではありませんが」
「あたしは今すぐ関わりを断ちたいんだけど」
だよねー、俺も関わりを断てるなら断ちたいよ。
俺のせいで死んでしまったら悲しすぎるだろ。
「ニア、黙りなさい。コウ様、私はずっとコウ様の味方ですからね?」
メイさん…マジ女神。
ボソボソと呟いてた媚び云々を聞いていなかったらなぁ…。
「ありがとうございます。もし自分に神の怒りが起きても、皆さんが無事な様に頑張ってみます。ここの皆さんには感謝しかないので」
「黒石さん…こちらこそありがとうございます。お互いに危険な目に逢わないように祈りましょう。さて、今のところ神の怒りが起きる様子もないですし、一通り説明は終わったので何か質問がありましたらお答えしますよ」
色々と質問したいことはあるけど、1番謎なシステムについて質問してみるか。
俺がこれからどうなるのかは神の怒り次第でわからないみたいだし。
「あの、システムってなんなんですか?ちょいちょい話しに出てきますし重要なものなんですよね?」
支部長が心労からか、哀愁漂うくたびれたサラリーマンみたいになっているが今度は俺のターン。
お疲れのとこ申し訳ないけどこっちもフラストレーションが溜まっているんですよ。
色々答えてもらおうじゃない。
「神のシステムのことですね。わか,,」
「それは僕が教えてあげようじゃないか!!」
対面ソファーの空きスペース、声高らかに謎のショタが参上した。
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