第7話 世界観測協会1
一息ついた後、隣に座ったメイドさんが尋ねる。
「すみませんが身分証をお持ちではないですか?名前、住所、生年月日がわかるものがあれば助かります」
尻ポケットに入れていた財布は奇跡的に落とすことなく無事だったので免許証を取り出し、メイドさんに渡す。
「
「はい、
「はい、メイドのメイですよ、黒石さん。私の歳は内緒です」
ぼんやりとだが少し笑っているように見える。
糞ビッチのせいで荒んだ心が癒される。
この人、おんぶされてる時に隙間から少しだけハッキリ横顔が見えたけど超かわいい。
垂れ目のおっとりお姉さんって感じ。
などと思っているとドアが開いた。
ひょろっとした青髪の白いスーツを着た男と、下の階でチラッと見えたニアと呼ばれていた女の子だ。
赤髪のショートカットで白いブレザーの制服を着ている。
二人はテーブルを挟んだ対面のソファーに座った。
「メイちゃん、どうしたんだい急に?何かあったのかい?」
ひょろ青髪が心配そうにメイさんに尋ねる。
「はい、急ぎでこの人の日本での状況を調べていただけないでしょうか?うちのお嬢様がやらかしました。50時間を越えたかもしれない転移者です。データはこれを使ってください、名前の読みはくろいしこうです」
そう言って、メイさんが免許証をひょろ青髪に渡す。
「っ…!ニアちゃん!急ぎで調べて!」
免許証がひょろ青髪から赤髪少女に移動。
「うっわ、マジなら超ヤバいやつじゃんこれ。関わりたくないんだけど」
『いいから早く!!』
メイさんとひょろ青髪が同時に叫ぶ。
「はいはい、やればいんでしょやれば。アウトならあたし逃げるからね」
しぶしぶどこからかタブレットのようなもの取り出し調べ始める赤髪少女。
「…
「はい、間違いないです」
「ちっとこれ見て。この眼鏡のモサい男、あんたで合ってるよね?」
赤髪少女が画面をこちらに向ける。
眼鏡が無いのでかなり近づいて画面を見ると、そこには間抜け面したモサい眼鏡の画像が映っていた。
「へ?いつ撮ったんですか?俺にしか見えないですけど」
「支部長、メイ、アウトだわ。あっちでもう本物になってるよ。名前の横に(仮)も無いし、転移不可マーク付き。じゃ、あたしは逃げるんで」
赤髪少女が席を立とうとするも支部長が腕を掴みそれを阻止する。
「…駄目ですよ、ニアちゃん。逃がしませんよ。君もここの職員だし、多分もう関係者に含まれるんじゃないかな?」
「は?逃げるって言ったじゃん。まさかガチだとは思わなかったわ。今ここの職員辞めました。あたしは今から荷物まとめて高飛びすんの、死んだらヤダし」
死ぬってどんだけよ?
なにやらかなりヤバイっぽい。
隣のメイさんも俯いてぶつぶつ言ってる。
「クソが、やっぱ駄目じゃねーか。俺が契約で逆らえないからって押し付けやがって。どうしてくれんだあの糞ビッチ。下手すりゃ俺も死ぬだろうが。今からあのアマの首刈って祭壇に供えるか?いや、この男に媚び売って俺だけでも助けてもら,,,,」
怖い、人格変わってませんかメイ様。
「あのー、どういった状況なんです?さっぱりわかんないんですけど」
支部長がため息をついて話し出す。
「…とりあえず皆落ち着きましょう。黒石さんに説明がてら状況を確認しようじゃないですか。ニアちゃん、逃げても私、本気で追いかけるから 。無駄だってわかりますよね?メイちゃんは本気で落ち着こうね?」
赤髪少女が諦めてソファーに座り、メイ様は無言で俯いたままだ、怖い。
「自己紹介がまだでしたね。私はこの世界観測協会、日本支部の支部長を務めるアイトです。隣の女性がここの職員のニア、よろしくね?黒石幸さん」
「よろしくー」
「よろしくお願いします、アイトさん、ニアさん」
気になるワード、日本支部。
ちょいちょいファンタジーしてるから日本のどこかってことはないだろうけど。
「さて、まず黒石さんがこちらに来てからのことを教えていただけないですか?」
「はい。上手く説明できないかも知れませんが」
「構いませんよ、気になるところがあれば私から質問しますから。あっ、ニアちゃん。2日前の召還記録、確認してくれる?ルミーナ嬢のやつね」
「もうやってるし」
赤髪少女が気付いたらタブレットで作業してたみたい。
俺もできるだけ頑張ってみよう。
「えっとですね、2日くらい前に職場の同僚の池田薫と喫煙室のドアを開けた瞬間、周りの建物が無くなって草原のような場所に出たんです。そうしたら急に豪華な扉から糞ビッ…ルミーナとかいう女が,,」
「コウ様、糞ビッチで構いませんよ」
言葉を遮られるのももう慣れたもんよ。
黒石さんからコウ様に変わったのはさっき聞こえた媚びなんだろうか?
別にメイ様をどうこうするつもりは無いのだが。
それと自分の主人が糞ビッチ呼ばわりでいいの?
「メイ様、落ち着こう。一応あなたの主人では?」
「何故急に私を様付けに?メイでいいですよ、コウ様。どうせここには私達しかいないので問題無いかと。支部長もニアもいいですよね?」
あなたも急に様付けにしてるじゃん。
俺はなんか怖いから様付けになっちゃっただけですよ?
「…私は問題無いよ」
「おっけー」
「…了解です。で、糞ビッチが出てきてもう一人の池田薫,,こいつも面倒なんでイケメンって呼びますね。イケメンだけ扉の向こうでお話ししましょうと、俺が二人同時はなんで駄目か聞いたら大事なことなので一人じゃなきゃ無理だと言いまして。結局イケメン一人行かせました。そこからは2日間飲まず食わずですね、なんとかならないか色々調べたんですけど無駄でした。最終的に糞ビッチとイケメンが戻ってきた時は草をガムみたいに噛んでましたよ」
「草w」
「ニアちゃん、やめなさい。メイちゃん、黒石さんにそこの冷蔵庫から何か飲み物を持ってきてくれないかな。黒石さん、こちらの菓子で良ければ召し上がってください。続きはその後で大丈夫ですから。この話が落ち着いたら食事も用意しますので少しだけお付き合いください」
ヤバイ雰囲気で言いずらかったけど、実はずっとテーブルにあるお菓子が食べたくてしょうがなかったんだよね。
若干気になる部分はあるが。
「ありがとうございます!いただきます!」
お菓子の乗った皿から見覚えのあるチョコクッキー的なお菓子を選び、口に入れる。
2日ぶりの食べ物に感動、これは味のしない謎の草なんかじゃないんだ。
甘い、旨い、生きてて良かった。
「お好きな物をどうぞ」
メイさんがテーブルに飲み物を置いた。
◯カリ、◯ーラ、爽◯美茶と日本語で書かれた500mlのペットボトルだ。
うん、お菓子もチョコ◯エールって書いてたしね。
ファンタジー感がゴリゴリ削れていくよ。
「ご馳走さまでした、本当にありがとうございます。お待たせしてすみません、続きをお話します」
食べてる間にメイ様が回復魔法をかけてくれて痛みもかなり軽減した。
メイ様、あなたが女神か。
少し怖いけど。
「お気になさらずに。では、続きをお願いします」
「はい、戻ってきたイケメンは上裸でキスマークだらけ、糞ビッチはベタベタ甘えてまして。あっ、2日間ナニしてたんだなって感じでした」
こっちが死ぬかもしれないとか思ってた時にあいつらは楽しんでたんだよなぁ。
なんで女が苦手宣言してたイケメンがあっさりと糞ビッチの虜になったのか謎だが。
「ええ、2日間ずっとやかましい声と汚物の処理で大変でした。…飯時までずっとヤってたからな、生臭い中配膳しなきゃならねぇこっ,,」
「メイ様、ストップで。落ち着こう」
ダークモードなメイ様より女神なメイ様がいいのです。
「あら、失礼しました。メイでいいですよ?」
しかしちょいちょい闇落ちするなこの人。
呼び捨ては怖いので次からは呼び方をメイさんに戻そう。
「それでイケメンの様子がおかしいんで、イラついたついでに糞ビッチのことビッチって言ったらイケメンに床に叩きつけれました。イチャイチャとした転送の儀式とかいうのが終わって、イケメンがいなくなったら儀式の記録を確認してたみたいですね。これから俺はどうなるのかって問いかけてみたら、喋るなゴミとか罵詈雑言を受けてまた床に叩きつけられました。後はメイさんの方が詳しいかと。自分ちょっと朦朧としてたので。ざっくりとした説明ですみません」
疲れた、前歯無くて喋りづらかったし。
メイさん、後は頼んだよ。
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