第3話 女神の聖域1

「なんだこれ?どうなってんだ?草が滅茶苦茶生えてんだけど」


 後ろを振り向くとさっきまでいた喫煙室どころか建物も無く、唖然としたイケメンだけがいた。


「どこですかここ?夢?でも黒石さんもいるし…。わけわかんないです」


 二人でパニックになっていると、目の前に光と共に金色の装飾がゴテゴテ付いた白い扉が現れる。


「うっわ!なんかでてきたぞ!立派などこでもドア!?」


「黒石さん!離れた方がいいですって!何か出てくるかもしれないですよ!」


 イケメンの言う通りでノブが回ってドアが開く、そこからひらひらとした布っぽい服を着た、長い銀髪の美しい女性が現れた。


「へ?外人さん?なんかのコスプレイヤーとかですか?」


「黒石さん!失礼ですよ!あのっ、すみません!ここってどこなのかわかりますか?あっ、日本語大丈夫ですか?」


 銀髪の女性はイケメンを見つめながら頬を赤らめ、ドアの近くにいた俺にしか聞こえないだろう声で呟いた。


「この子、思ってた以上に素敵だわ。なんでゴミ付きなのかは知らないけど」


 こちらを一切気にすることなくイケメンへ近寄って行く女性。


「日本語で大丈夫ですよ。はじめまして、池田薫様。ここは女神の聖域、あなたが来るのを心待ちにしておりました」


「えっ、なんで僕の名前を知ってるんですかっ!?女神の聖域!?説明していただけませんか!?」


 女神の聖域?これってもしかして今流行りの異世界とかそんな感じ?

 死んだのか俺達?でも何で?


「私はあなたのことを見ていましたので…。色々と疑問に思っている事でしょう。この扉の先に休める場所がありますのでそちらでお話しませんか?私がどの様な存在かもそちらでお話しします。決して悪いようには致しませんから」


「…わかりました。行きましょうか、黒石さん。この人に状況を説明してもらいましょう」


「おう、何が何だかわかんないし行くしかないか」


 イケメンの言葉に従って扉に近付こうとする。


「あぁ、すみませんが順番にお話する必要があるのでゴ…黒石さんはここでお待ち下さい」


 ゴってなんだよ。

 さっき呟いてたゴミって俺の事なの?

 確信が無いので口に出すのは止めておくけど、なんか滅茶苦茶怪しいぞコイツ。


「なんで俺が一緒じゃ駄目なんです?一人づつ話をするより、二人まとめて話した方が早いでしょ」


「申し訳無いのですがこの場所から出る為にどうしても必要な事なのです。お二人のこれからに関わる事なのでどうかご理解下さい」


 いやちゃんと説明しろよ、と思っているとイケメンが近付いて耳打ちしてきた。


「黒石さん、怪しいですけど自分が先に行って確かめてみます。何があるかわからないので、黒石さんはここで元の場所に戻る方法を探してみて下さい」


 あの女の思惑通りに動くのは嫌だが、このイケメンを信じてみる事にする。

 心配だがあの女は明らかにイケメンに好意を向けているのでおそらく危害を加えたりはしないだろう。


「わかった、何かあればすぐ逃げろよ」


「了解です。黒石さんもお気をつけて」


 扉に向かうイケメンを見送り、俺は女を睨み付ける。


「怪しまれるのは仕方ないですが少し悲しいですね…。池田様、一緒に来て頂けるんでしょうか?」


「ええ、一緒に行きますよ。黒石さん、待っててくださいね!」


 その言葉を聞いて女がとても嬉しそうな笑顔になった。


「それでは向かいましょう、池田様。お互いの事をじっくりお話しましょうね♪」


 イケメンと無言で頷きあい健闘を祈る。


「おい女!池田君に変な事するんじゃねーぞ!」


 最後に女に声を掛けるがこちらを見ることもなく無視され、扉の中に二人が入る。

 扉は閉まると同時に跡形もなく消え去り、草原には三十路のおっさんだけが残された。



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