1st SEASON EPILOGUE

「お疲れさまでした、リベル様」

「お疲れ様じゃないよォォォォォォォッ! なんなんだよ、この状況⁉」


 幸いにも、身を隠せる掩体が多く、夜水景よみかげがステルス機能に優れていたこともあり、俺はなんとかファベーラから逃げおおせた。正直、奇蹟的な偶然に助けられての脱出劇だった。そもそも、戦場に無理矢理連れてこられて、あんな主人公サマバケモノ相手によく五体満足かつ正体がバレずに逃げ切れたものだ。本当に運が良かった。


「おい、見ろよ。なんか、魔王のスレッド立っているぜ? しかも、すっげえ人気者だぞ!」


 端末をいじっていたランドが

 いやだいやだ聞きたくない。ん? 人気者?


「なんでも、テロリストを束ねて、ファベーラ内の帝国民を殺した伯爵軍を負かせて、更にテロリストの粛清もしたんだってよ」


 なにそれ、怖い。


「今のところ、魔王の正体は帝国本土のマッチポンプ説から連邦勢力説、トンデモどころだと別次元からの侵略者説とかあるな」

「ふむ――。ランド殿。魔王がテロリストを束ねていたと?」


 なんか、考え込むように下唇を人差し指に乗せる唯桜いお。かわいい。


「ああ。誰が言っているのかはわからないけど、魔王は伯爵へ向けて、無辜の民を傷つける輩は断じて許さないって宣言していたようですよ」

「――――まあ、普通の通信手段も封じられた場所では、真偽も定かではない情報が流布されるのは当然ですね」


 なんだか、自己解決したようだ。


「あの、唯桜さんよ。俺が魔王とバレたらとんでもないことになるんじゃ……」

「ええ、そうですね。評判通りと帝国が認識していたら、魔王はテロリストの親玉的な扱いでしょうか。よかったですね。捕まったら、帝国法でも星間法でも捕虜として扱ってくれない、黒社会のスーパースターです」

「バッカじゃない? いや、バカだろ! バカだと認めてくれ‼ 俺がいつそんなのになりたいって言ったよ!」


 なんか、嬉しそうな気配を漂わせる唯桜。まあ、無表情なんだけど。


「私は嬉しいです。ようやく、リベル様がご自分のご意思で、進むべき道を見定めたことが――」

「あの……聞いてます?」

「銀河帝国皇帝の道を歩むか、それとも母君の仇敵を討つために、あえて帝国の敵となる道を歩むか――。後者のより厳しい道を歩まれたご決心に、私は感動しているのです!」


 …………駄目だ、言葉が通じない。


 ああ、気が遠くなる。俺はこの先どうなってしまうのだろうか。



 * * *



「魔王、そこまでの相手か」

『ええ、腕前は私と同等。しかし、頭脳の明晰さと判断の鋭さは、私の上をいきます』


 エイジ・ムラマサ。リミテッド・マヌーバー月影狼つきかげろうのテストライダーを務められる数少ない操縦士だが、その彼と互角に迫るとは、魔王の実力は恐るべきという他ない。ヴァルドルフ・マキナ・ピースメーカーは、エイジからの報告を聞きながらそう思っていた。


『ですが……流石にヴァルドルフ殿下が気にされるほどの相手とは――』

「確かに、帝国という巨象から見れば、今は一匹の蟻に等しい。だが、蟻も集まれば象をも斃せる。そして、彼はそれを理解している」

『まさか、あの宣言にはそういう意図が?』

「間違いなく、ね。今は小さい単独の敵に過ぎない。だが――」


 沈痛な面持ちを見せるエイジ。彼は、魔王を取り逃したことが示す未来を想像しているのだ。しかし、仮にこの星系でエイジ・ムラマサ以外の人材が、魔王と相対できるはずもない。


「しかし、よくやってくれた、エイジ。これで魔王も君を警戒していることだろう。それだけでも、充分な戦果だよ。さあ、そろそろ休みたまえ。明日も学校だろう?」

『ハッ……』


 通信が切れる。ヴァルドルフの手元のモニタには、月影狼の機体情報が映し出されていた。


「これなら、本来よりも早く完成させられるな」


 必要なものはデータだ。運動性、旋回性、格闘能力等々……それらを統合して、効率的かつ流動的に選択/運用するソフトがなければ、彼の求めるモノは完成しない。しかし、元来よりも早い遭遇戦を経て、ヴァルドルフの計画は大きく前進した。


「シルヴァリオン、そして――」


 月影狼の隣に表示されたのは、シルヴァリオ・エイジにてエイジの後継機として、魔王に幾度もの苦渋を飲ませる白銀の機体。月影狼の性能をそのままにキャバリーへと詰め込んだ、一騎当千古くさい英雄譚の騎馬だ。だが、もう一つ表示された機体の建造予想図にヴァルドルフの視線は注がれていた。


「フフフ、ハハハハハッ、リベリオン。世界を変える機体」


 それは本来、この世界には存在しないはずの機体。だが、その事実を理解できる者がたしてこの世界に何人いるのだろうか。


「次元エレベーター。必ず手に入れてみせる。なあ、魔王?」


 ヴァルドルフ・マキナ・ピースメーカー。長い帝国の歴史においても稀代の傑物の笑いは、その皮の下に秘め隠した怪物の本性を僅かながらに覗かせていた。



 * * *



「リベル様。これから忙しくなりますね。さあ、今こそ帝国に反旗を翻しましょう! リベル・リヴァイ・ヴァントラインの叛逆を!」

「いい加減にしろーーー! 俺は絶対に平穏な生活を手に入れるんだーーーーー!」

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