思い出
お母さんは毎日、
そしてわたしにも毎朝、「今日はこのお着物にしようね。
自分が派手派手しいものは身につけないぶん、
お客様をお
うちには時々、ふいに客人が来た。どんなお客様か知らないが、お客様が来るとわたしは必ず、家の奥で静かにしているように言いつけられて、お客様と顔を合わせないようにしていた。
可愛らしい
そんなときにはいつも
子狐はビー玉にじゃれることもなく、ただじいっと、わたしの手元を見つめていた。
子狐がいてくれると安心した。真っ黒い
うまく転がらないビー玉に
どんなにふて腐れていても、子狐の冷たくて
◆◆◆◆◆◆◆
冬の夜、
置き去りにしたのは、お母さん。
いつもは家から出ないようにと言っていたのに、その日のお母さんは、そわそわとわたしを家から連れ出して浅草の盛り場を引っ張り回した。すっかり暗くなる
するとお母さんはわたしを、浅草公園四
「ここで待っていて」
それだけ言うと、
池の向こう側には、空に
この寒空、
夜でも
お母さんが
心の中で、誰かが意地悪く
『お母さんは、待っていてと言っただけで、戻ってくるとは言わなかったよ?』
と。
ますます怖くなって泣いた。
冷え切った足先も指先も
泣き疲れた頃に足音がした。
やっとお母さんが戻ってきたと思って笑顔で顔をあげると、目の前に見知らぬ若い男の人がいた。
黒い二重回しと、同じく黒のサキソニー
その人からは
よく見れば、スタンドカラーの白襟に、どす黒い血がべっとりついている。それだけではない。三つ揃いもマントも黒く濡れているのは、血ではないだろうか。
おののき、
「おまえの母親はもう、帰って来ない」
低く落ち着いた声。氷の上を
「おまえは、一人だ」
真夜中の町に、一人きり。助けはいない。怖い──
「
さらに一歩、その人が
「待て!」
怖い。怖い。怖い。
降り続く雪をかき分けるようにして、闇の向こうへ、
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