恋心


 学生のユウイチがためらいがちに言った。


「カナ。最近、僕を避けてないか?」


「……そんな」


「だって、なかなか逢ってもくれないじゃないか」


 短大生のカナが俯いて言った。


「だって最近、ユウイチが変わったから……。 以前のユウイチのほうがわたしは好き」


「前の僕は無口でろくにしゃべらなかったし、暗かったのに?」


「でもわたし、そんなユウイチが好きだったの」


「……」


「今のユウイチは前向きだし、おしゃべりで明る過ぎるのよ」


「楽しい男のほうが好きじゃないの?」


「わたし、実は陰のある男に惹かれるタイプなの」


「以前の僕は受験に失敗し、親にも死なれて落ち込んでいたんだ」


「でも、そんなユウイチが好きだったの。守ってあげたかったのよ」


「えっ? あの頃の無気力な僕が好きだったの? 今は立派に職についてがんばってるというのに」


「がんばってる人って好きじゃないの。悩んで落ち込んでないとだめなの」


「……そ、そんなのってむりだよ」


「じゃぁ、終りね」

 

 ユウイチの表情が変わった。


「君がそんな男が好きだったなんて知らなかった。僕はそんな男に戻る気はないし、あきれたよ、君なんかともう居られない。さ・よ・な・ら」

 

 ユウイチが立ち去ろうとするところに後ろからカナが叫んだ。


「でも、わたし女をふる男は好きなの!!」


「――そんなこと言われたって、そんなこと……」

 

 間が少しあいてユウイチが言った。


「やっぱり僕はカナが好きだ!!」


「そういう風にすぐ女を許す男はわたし大嫌いなの!」


「……そうなんだ?!」



              END

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