へんな誘拐

 相田氏の家の電話がけたたましく鳴った。でっぷりとしたお腹と、白髪交じりの相田氏。

 不承不承に電話に出れば、受話器のむこうの誰かが衝撃的なこと言う。


「相田さん。あんたの可愛い小学生のお嬢ちゃんは、下校途中この俺がうまく騙して誘拐した」


 絶句する相田氏。


「えっ!! な、なんですって!!」


「ふふふっ、まあそう焦るな! 命をとろうなんて言わないから。ただし、金を用意しろ一千万、キャッシュだ。サツに知らせれば、もちろんお嬢ちゃんの命はない」


 顔が苦痛に歪み、悶絶する相田氏。


「わ、わかった。あの子に指一本触れるなよ。約束できるか」


「ああ、約束する。俺には元々人殺しの趣味なんてないからな」


「わかった。あんたを信じよう。だが、金は直ぐには出来んぞ。工面しなければならん」


「ああ、少しばかり猶予をやるよ」


「それで……」


 そこまで言いかけた時、玄関ドアが開いて女の子が元気に帰宅した。


「ただいまー!」


 訳の分からない相田氏。目をしばたたかせて彼女を抱きしめた。


「どうした?」


「どうもこうもないよ、いま娘が帰ってきた」


「な、なんだと!!?? そんなばかな!」


 暫らく続く沈黙。そして。


「あんた、相田だよね。五丁目の相田だよね?」


「ああ、だがこの辺には相田と言う家が五軒もあるが」


「四つ角にある資産家の相田だよね」


「いいえ、私は四つ角から三件目の相田さんと七軒目の相田さんの間にある貧乏人の相田だが」


 ――電話が切れた。



                 END

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