第44話 想い遙かに~ジャド師とユリウス

「宇宙連合軍と帝国軍が交戦中である以上、後方支援はできても、もと帝国軍の将軍だったエルフィン救出のために、私が直接マルデクに乗り込むわけには行きません」

と、ミカエルは言った。


「分かっています。あなたがマルデクに行くと、戦争がより複雑になってしまう。

 それは私も望みません」

と、ジャド師は答えた。


「オリオンを釈放してください。

 オリオンがいれば、私たちにとっては、百万の兵を得たのと同じことです」


「お体は、大丈夫ですか?」

と言って、ミカエルはシャンバラ最後の導師、ジャド師の健康状態を心配した。


「心配はご無用。これが最後の旅になろうとも、自分がまいた種は、自分で刈り取らねばなりません。

 もとはと言えば、私がユリウスをウィルヘルム卿の黒魔術から護れなかったことが

原因なのですから」


 総統ユリウスはかつて、ジャド師の教え子だった。

 総統ユリウスの聡明さは、当時、シャンバラにも伝わっていて、招待者のリストに入っていたのだ。

 ユリウスをシャンバラへ招待するべきか否かの、最後の調査と試験が、秘かに行われていた。ジャド師はその試験官であり、ジャド師の護衛としてシャンバラから派遣された武官が、実はハンネスの父、玄武だったのだ。


 ジャド師はウィルヘルム卿が黒魔術の信奉者であることは、学生時代から知っていた。しかしウィルヘルム卿が、黒魔術の秘密組織を率いる影の実力者であることは、全く気づいていなかった。

 結局、そのことがユリウスという、この世を闇から救うはずだった、まばゆいばかりの希望の光を放つ光の天使を失い、玄武まで失うというあの大惨事へとつながったと、ジャド師は今でも後悔していた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る