第10話 医官ハンネスの過去とエルフィンの秘密

 エルフィンは目覚めたとき、医官ハンネスが部屋の片隅で武術の練習をしていることに気づき、驚いた。


 ハンネスは刀を使い、フォースを操る練習をしていた。

 見事な剣さばきだった。帝国軍の精鋭ぞろいであるエルフィンの部隊にも、これほどのフォースの使い手はいなかった。


「凄い剣さばきだ」

と、エルフィンは目を丸くしながら、ハンネスの練習を見ていた。


「こんなに武術ができるのに、なぜ隠してしていたんだ?」

とエルフィンは微笑みながらハンネスに言った。


「“能ある鷹は、爪を隠す・・・”、って言うだろう。だからだよ。

私は自分が認めた主人にしか、武人としては仕えない」

とハンネスは答えた。


「昔、あるご婦人と子供たちの命を、刺客から守るように、シャンバラの大神官ユダさまから命令を受け、密かに潜伏したことがあった。しかしその任務に失敗して、子供たちは謎の軍団に連れ去られ、殺されてしまったんだ。

 そのとき、もう剣は持つまいと思った。

 でも、そのときの子が生きていることを、昨日、知った」


 ハンネスは刀を鞘に収めると、エルフィンを見つめ微笑んだ。そして、


「私はユダさまからの言いつけを守り、その子の命を守るつもりだ」

とエルフィンに、ハンネスはきっぱりと言った。 そしてエルフィンの側へ来ると、


「もう隠すな、エルフィン。お前、アトランティスの統治神<シ>の妹、ヨシュアさまの子供なんだろう?」

と言った。


「お前は誤解して逃げたが、私はお前を助けに行っていたんだ」


 エルフィンはおぼろげながらも、あの時のことを思い出した。

 突然、大人数の刺客たちが現れ、エルフィンたちを襲った。

 母は子供たちに逃げるように言い、エルフィンとルカは必死で走り、逃げようとした。その時、一人のまだ若い、少年のような武人が現れ、エルフィンたちに向かって走ってくるなり、黒装束の刺客たちを次々と倒していった。

 しかしエルフィンはその武人が怖くなり、逃げた。

 そしてひたすら走った。そして気が付いたときルカとも離れ離れになっていた。


「秘密の指令だったから、ユダさまの名前を出すわけにはゆかなかったんだ。

そして私はあまりに若く、未熟だった」

と、ハンネスはエルフィンに言った。


「とにかく、生きていてくれて、ありがとう」

と、ハンネスは涙を浮かべて言った。

そして驚くエルフィンを、やさしく、強く抱きしめた。そして、


「それから、お前が、お前の母上に聞きたかったことの答えを、私は知っている」

と、言った。


「お前の思っている通りだ。お前はシャンバラの遺伝子を、受け継いでいる。だから変成しないんだ」


 エルフィンは、自分がいつまでも変成しないことを、不思議に思っていた。

 変成しない者は、アトランティスでもまれにはいたのだが、その者たちは、いつも、明らかに何かが欠けていた。しかしエルフィンは違っていた。未分化だが、その状態は健康な若者と何ら変わらず、いや、それ以上であり、だから変性していない状態であることが、不思議だったのだ。


 そしてある時、エルフィンは聞いたのだ。

 シャンバラではまれにそういうものが生まれ育つと。

そしてその者は、シャンバラの高僧の生まれ変わりであることが多いと・・・









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