第15話 ギルド
一歩を踏み入れると、そこは外とはまた違った世界だ。内部は床壁天井殆どが木造で外観と同じレトロな雰囲気があるが、やはりどこを見ても綺麗な作りを保っていて高級感がある。こう見ると敷居が高そうに見えるが、中には様々な人種がいて、特に小さい体に鎧を着て歩いているドワーフの奴らを見ると俺みたいなのが居ても不思議と場違い感は感じない。
奥に進むと役所の時みたく、カウンター奥に受付の役員らしき女性が立っていた。女性は綺麗な桜のような髪色をしていて、その頭に兎の耳のようなリボンを付けていた。兎の耳のようなリボンなだけで、獣人族とかでは無い。しかし一際目を引く整った容姿に一瞬エルフなのかとも思ったが、耳は尖っていないのでおそらく普通の人間族だろう。毎度思うことだが、この世界の顔面偏差値は異様に高すぎる気がする。
俺は奥の受付の女性に話しかけた。
「あの、冒険者登録をしたいのですが」
「はい、ありがとうございます!ではこちらの書類にサインをお願いします」
女性の用意した一枚の紙にはズラリと文字が並んでいて、『この契約に同意云々』と書かれている。俺は下にあるサイン欄に名前を記入した。
「ありがとうございます!それでは身分証はお持ちですか?」
身分証はさっき役所で作ったプレートのことだ。プラスチックに似た透明な素材の中に俺の個人情報が黒字で記載されている。
俺は懐から取り出したプレートを女性に手渡した。
「はい、それでは職業欄を上書きさせていただきますね」
そう言って女性はプレートを真剣な目で見つめ始めた。
そして、
「はい、出来ました!これであなたはFランク冒険者です」
「えっ?もう?」
今回はより一層早かった。おそらくプレートに魔力を込めてプレート内の文字を書き換えているのだと思う。
「それでは、登録料1000メリルを頂戴いたします」
「あ、はい」
今回も同様にお金がかかるみたいだ。
俺は麻袋から金貨一枚を取り出して女性に手渡した。
「ありがとうございます。それでは各事項の説明をしますので、あちらのテーブルでお待ちください」
そう言って女性は部屋の奥にあるテーブルを指さした。俺は言われるままにテーブルに着き、女性が来るのを待った。
「お待たせしました!」
しばらく待つと先程の女性がテーブルまで歩いてきた。
彼女は俺の目の前の席に座ると、
「それでは、まず自己紹介から。私の名前はマレトワ・イーベルシィ。皆さんからはマレって呼ばれています。よろしくです!」
「ユ、ユウです。よろしく」
元気だなこいつ。
彼女の途方もなく明るい笑顔に、ちょっと身構える自分がいる。一神達と同じく溢れ出るこの陽キャラ感。合わせるのが面倒なので心底苦手なのだ。
「ではでは、早速ですが冒険者について説明しますね!」
マレは元気に語り出した。
冒険者はギルドから提供してもらった依頼をこなすことで、仲介料を差し引かれた報酬を受け取ることが出来る。
冒険者にはFからSまでのランク制度が設けられており、ランクが高ければ高いほど受けられる待遇が良くなるらしい。
例えばBランク冒険者はBランク以下の依頼しか受けることが出来ない。これがAランクに上がれば受けられる依頼はAランク以下の依頼にまで増える。そして高ランクの依頼ほど難易度や報酬も高くなるわけだ。
他にも、ギルドでは冒険者達の持ち帰った魔物の部位素材の買取も行っているらしく、ランクが高ければその買取金額も上昇するようだ。最高ランクのSともなれば、その待遇はかなり凄いらしい。
そして登録したばかりの俺は現在はFランク冒険者である。ランクを上げるにはとにかく依頼を地道にこなすしかないらしいが、
「あの……手っ取り早くランクを上げる方法って無いですか?」
Fランクの依頼ばかりやっていては金が一向に貯まらない。別の地域に引っ越すどころか、このままでは生活資金すら危うい。欲しいものも沢山ある。
「そうですね……何か著しい功績を上げればランクが飛び上がったりすることもあるんですが……。そうだ!今度誰でも参加できる特別依頼がありまして、そこで活躍出来れば一気にランクが上がること間違いないですよ!」
何と都合のいい。もしかして自分は運がいいのだろうか。
「じゃあそれに」
「あ……ですがその、この依頼は少々危険が伴いまして……」
「どんな依頼なんです?」
「未開拓の迷宮攻略です」
|迷宮(ダンジョン)。
それは女神マルトアが生み出しているという説や、嘗ての勇者たちの残した遺産だという説もあるが、未だ解明されていない。
迷宮は何の前触れもなく、突如として現れるもの。山に、海に、あるいは砂漠や火山といった場所にも同様に出現するのだ。迷宮内は未知の領域。踏み入れたら最後、戻って来なかった人間は数多く存在する。そんな中を探索しようと言うのだ、半端な覚悟で挑むべきではない。
「分かりました。じゃあその依頼受けます」
「ええ!?自分で紹介しておいて何ですがほ、本当に受けるんですか……?」
「はい、どうして?」
「えと、その……」
マレはとても言いづらそうな顔だが、考えていることは何となく分かる。
すると横から下品な笑い声が聞こえてきた。
「おいおい、まさかお前がダンジョン攻略に参加するってのか?随分と笑わせてくれるじゃねぇか」
声の主は二メートル程の大きな体に鉄製の鎧を着た男だった。一応人間族だとは思うが、それを疑うほどの巨漢だ。
まぁ、どうでもいい。
「それで、依頼は受けられるんですか?」
「え、ええ……。一応全冒険者の方に参加資格があります」
じゃあ問題は無いはずだ。
「じゃあ、やはりその依頼を」
「てめぇ!なに無視してんだ!」
突然割って入ってきた男は俺の胸倉を掴みあげた。
体格差のせいか俺の体は宙に持ち上がり、つま先だけで立っている状態だ。
「オ、オルドラゴさん!暴力はダメですよ!」
マレは慌てた様子で仲裁に入ろうとするが、
「へっ、ムカつくんだよ。こんな雑魚がダンジョン攻略だなんて十年早ぇ!マレちゃんだってそう思うだろ!?」
「で、ですが……暴力を振るう理由にはなりませんよ……」
「こいつはここで痛い目を見させてやらなきゃなわからねぇんだ!」
どうやら俺に暴力を振るうつもりのようだ。自信満々そうで見るからに強そうな男でもある。丁度こいつで腕試しでもしてみようかと考えたが、今後俺の職場になる場所で騒ぎを起こしたくはない。ここは何とか穏便に済ませたいところ。
「えっとおじさん、手を離して貰えますか?服が破けちゃうんで」
服が破けるのが一番困る。今はこの服しか無いのだ。
「あ?ふっははは!そうかそうか!貧乏人のお前は服も買えねぇのか。鎧も武器も無しにダンジョン攻略に挑むくらいだもんな!」
男は胸倉を掴む手を離すと、再びゲラゲラと不快な笑い声を上げた。
大体当たっているのでムカついて、つい反射的に口が動く。
「バカかお前?冒険者登録しに来たのに何で鎧や武器がいるんだよ」
「――くっ」
その瞬間、男が右拳を振り上げたのが見えた。その拳がゆっくりと俺の顔へ近づいてくる。
避けることは出来る。
だが一発殴られないとこいつは収まらないだろうし、それで場の収拾がつくのなら。
そう思った次の瞬間に男の拳に俺は顔を跳ね飛ばされ、近くにあった別のテーブルに勢い良く突っ込んだ。
「ユウさん!?」
「へっ、雑魚がいきがってんじゃねぇ」
男はそう吐き捨てると去って行った。
するとすぐさまマレが駆け寄ってくる。
「ゆ、ユウさん!大丈夫ですか……?」
「ええ、大丈夫です」
嘘ではなく、本当に大丈夫だった。
殴られる寸前ある程度の痛みは覚悟していたが、全くと言っていいほど痛みは感じなかった。これは俺の防御が奴の攻撃を上回ったということなのだろうか。
「すみません……私が迷宮の話なんて持ち出したせいで……」
「いいんですよ。それより、やっぱり依頼を受けたいのですが」
「………………分かりました。その代わり、私が全力でサポート致します!!」
「…………え?」
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