第61話 雷使いの魔法少女の件

 リュウトが飛竜の森で数時間過ごしていると、風竜が帰ってきた。

 しかし、背中に乗っていた少女はアリアではなかった。

 衝撃を受けるリュウトに少女は言った。


「ねえあんた。リュートって知ってる? あたし、リュートって男に用があるんだけど!」


 水色の長いポニーテールと黄色のメッシュ。街中では見かけないような女の子だ。

 リュウトは少女を無視して、風竜に駆け寄った。


「風竜だよな! 久しぶり! オレのこと覚えてるか?」


 風竜は疲れているようだった。


「どうしたんだ? 一体何があったんだ? 飛竜の身体にいい果物ならあるから、これをあげるよ。植物に詳しい友だちからもらったんだ。食べられそうか?」


 風竜はぐぐぐと口を開け、リュウトが渡した果物を食べた。


「美味しくないのは我慢してくれよ」

「ちょっと! あたしを無視する気!」


 風竜に乗ってきた少女がわめいた。


「うるさいよ! 今はそれどころじゃないんだよ!」

「キィイーッ!」


 リュウトはもう一度風竜に向かって話しかけた。


「風竜、アリアはどうしたんだ? いつも一緒なはずだろ?」


 風竜は目を閉じた。相当疲れていたようだ。


「それはあたしから説明するわ!」

「何……?」


 リュウトはようやく少女の話し相手をする気になった。

 アリアだと思っていたら違っていたので、リュウトはこの少女に勝手だが腹が立っていた。


「ところであんた、さっきアリアの名前を口にしたわね。アリアを知っているのね? それなら話が早いわ!」

「な……」


 ――この少女も、アリアを知っているのか?


 リュウトは身構えた。

 まずはこの少女が敵か味方か判別しなければならなかった。


「そうね、最初にあたしの自己紹介をするから聞いていなさい! あたしの名前はラミエル。雷の魔法使いの名門、トネール家の一人娘、ラミエルよ! 雷魔法が得意な魔導士なの!」

「雷の魔法……?」

「そう。あたしは雷の魔法を極めるため、魔導士の国マギワンドの魔導学院に通っていたの」


 マギワンドの魔導学院は、たしかアリアが通っているはずの学校だ。


「マギワンドの学生が、なぜリト・レギア王国に……?」

「……一週間前のことだった。あたしたちの学院に、突然闇の魔導師たちが現れたの。そして、学長に学院を乗っ取ることを宣言したの……。あたしたち魔導士は闇の魔導師から学園を守るために必死で抵抗したんだけど……ダメだった。アリアはあたしを逃がすために身代わりになったの。風竜を連れて、リト・レギアに逃げてって……。アリアとあたしは親友だったの! リュートって名前の男のことはしょっちゅう彼女から聞かされていたわ。だから、あたしはリト・レギアのリュートって男に会わなくちゃいけないのよ! アリアがその男を好きなように、その男もアリアのことが好きならアリアを助けてくれるって信じてあたしは風竜と一緒にここまで逃れてきたの!」

「え……?」


 リュウトは少女の説明がよく理解できなかった。


「闇の魔導師が……学院を襲う? それでアリアは? アリアはどうなったんだ?」

「だから言ったでしょ! あたしを逃がすために身代わりになってしまったの!」

「身代わり……?」

「そうよ! だから助けに行かなくちゃいけないの! リュートって男を探して、闇の魔導師の手からアリアを救いださなければならないのよ!」


 リュウトは突然のことに茫然とした。

 アリアが通う学校で、そんなことが起こっていたなんて。


「オレが……リュートだ……」


 ラミエルは驚いた。


「ええええーっ! あなたがリュートなの? アリアの話と全然違う! リュートは頼りになって、カッコよくて、やさしくて、世界一最高の男性だって話だったのに!」

「うっ! そのセリフ、聞いた覚えがある。ゾナゴンがやってきたときみたいなセリフだ……」

「ゾナゴンってなによ」


 ラミエルが聞くと、リュウトの背中からゾナゴンが出てきた。


「呼んだぞな?」

「ゾ、ゾナゴン! いたのかよ!」


 シリウスと二人だけでこの飛竜の森に来たと思っていたら、また勝手にゾナゴンはついてきていたようだ。


「我はリュートのそばにずっといるぞな~」


 ラミエルは顔を青くした。


「あ、あ、あ、ば、化け物ー!」


 ラミエルはゾナゴンを魔物と勘違いしたらしい。


「失礼なおなごぞな! ……と思ったら違うぞな? こやつ、男ぞなもし? おっぱいがないぞな!」


 ゾナゴンを見て悲鳴をあげていたラミエルは、ゾナゴンのその一言で我に返った。そしてすぐに怒りで我を失った。


「へ、へ、変態! あたしの胸を見てそう言ったのね! 殺す! あたしの本気の雷の魔法を受けて死ななかった奴はいないんだからっ!」


 ラミエルは腰につけていた魔導書を取り出した。

 魔導士たちは、この魔導書に書かれている呪文を読み上げることで魔法を完成させて攻撃することができる。

 呪文を読み上げるラミエルの頭上に、雷雲が発生した。


「いかずちよ! いかずちよ! この者に天罰を! 不浄なる魔物に、怒りの粛清をッ!」

「や、やばいぞなーっ!」

「おちつけ! おちつけ! ラミエル!」


 怒りの魔法攻撃を放とうとしているラミエルを一生懸命リュウトはなだめた。


「アリアが危ないんだったら、今すぐにでも助けに行かなくちゃダメだろ! こんなところで魔法を撃っている場合じゃないっ!」


 リュウトの説得を聞いて、急に冷静になったラミエルは魔導書を閉じた。


「それもそうね」


 ラミエルは魔法をやめた。

 同時に頭上の雷雲も消えた。


「ほっ」


「それじゃあ、リュート。あたしと一緒にアリア救出を手伝ってちょうだい。いいわね!」

「待ってくれ。オレだってアリアを助けたい。けど今のオレは、王国竜騎士団の一員なんだ。勝手な行動はできない。国王と……ソラリス王子に許可を取ってからしか動けないよ!」

「どういうこと! さっきと話が違うじゃない! 今すぐアリアを助けたいんじゃないの!」

「助けたいよ! でもまずはアリアの家族に近況報告をするのが先だ! アリアのことを心配しているはずだよ!」

「……! そ、それも、そう、ね……」


 ラミエルという少女は、物事を深く考えるのが苦手で、怒りっぽく、感情的になりやすい性質らしい。

 リュウトが苦手なタイプの女性だ。


 言い争っていると、竜の体力を回復させる果物が効いた風竜が目を覚ました。


「あっ、風竜。気が付いたか? 王城まで飛べそうか? ラミエルを王城まで連れて行って、国王とソラリスにアリアの事情を説明しよう。場合によっては、力を借りたほうがいいかもしれないからな……」


 風竜は立ち上がった。

 風竜もアリアを助けたい気持ちは同じようだ。


 リュウトはゾナゴンを連れてシリウスに乗って、ラミエルは来た時と同じように風竜に乗って王城を目指した。

 雷使いの魔法少女、ラミエル。

 アリアの親友を名乗る、少し激しい性格の少女。

 彼女の操る雷雲のように雲行きが怪しくなってきたが、二匹の竜は王城を目指して飛び続けた。

 そして王城にたどり着く手前で、大雨が降り始めた。


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