天空の姫君と異世界の竜騎士
島居優里
竜騎士の国リト・レギア編
第1話 ドラゴンに焼き殺されたら異世界転生していた件
――夢を見た。すごくファンタジーな夢だ。巨大なドラゴンを相手に単身、戦う夢だった。ドラゴンは背中に誰かを乗せていた。顔までは覚えていないが、小さな女の子だったことは覚えている。オレはその女の子に向かって、必死に何かを呼び掛けていた。だけど、オレの声は、最後まで彼女には届かなかった。そしてオレは、彼女が乗るドラゴンの吐いた炎に焼かれて……死んだ。
第一部
「うっ! うわああああああっ!」
佐々木リュウトは、自らの絶叫で悪夢から目覚めた。
「お兄ちゃん、うるさーい!」
すかさず、妹のミクが隣の部屋から文句を言いに来た。
「もうっ! 勉強中なんだから、静かにしてよっ!」
「ド、ドラゴンが、ドラゴンがああ……!」
「ドラゴン~?」
リュウトの額には、悪夢のせいでかいた汗が滝のように流れていた。背中も汗でびっしょりと濡れていて、気持ちが悪い。
「……って、あれ……? オレは夢を見ていたのか……?」
リュウトはパジャマの袖で額の汗をぬぐった。
夢から覚めてよかったと、安堵のため息をついた。
こわい夢を見ていた記憶があるが、どんな内容だったかまでは思い出せない。
「うーん、何か大切な夢だったような気がするんだけどなー……」
腕組みをしながら考えてみるが、一向に思い出せない。
「なんでもいいけど、勉強の邪魔はしないでよね!」
ミクは扉をバンッと閉めて、自室へ戻っていってしまった。
真面目に勉強に取り組んだことのないリュウトからみて、受験勉強に励むミクは尊敬に値する立派な妹だった。
「お前がいればこの佐々木家も安泰だな! ……ではそろそろ起きようか……」
と言いながら、リュウトは勢いをつけて立ち上がった。立ち上がった瞬間、夢のことなどはどうでもよくなっていた。階段をドタドタと大きな音を出して降り、リビングへ向かった。
朝食のパンをかじりながらリビングのテレビをつけると、衝撃的な映像とともに、最近知らない国で起きた爆破テロ事件のニュースが流れた。じっくり見ると朝食が逆流してきそうなほど、ショッキングな映像だ。
「おえっぷ」
吐きそうになりながら、リュウトはリモコンを探した。
「あったあった!」
リモコンで番組を変えていると、ソファの背もたれと椅子の隙間からケータイのメールの通知音が鳴った。
「あ、オレのケータイ。昨日から見ないと思ったら、こんなところにあったのかあ!」
手を押し込んで、ケータイを取り出すと、メールの内容を確認をした。
「あっ……。アツトたちと映画館に行く約束、今日だったっけ……。うわー、すっかり忘れてた!」
ケータイには、アツトからメッセージが来ていた。
『今日の午前十時、駅前で。忘れてたら置いてくからな!』
「十時って……もうすぐだ!」
一日中パジャマでゆっくり過ごすつもりでいたが、着替えなくてはいけなくなった。
「アツトたちと映画をみに行くだけだし、適当な服でいいか!」
積み上げられた洗濯物から黒いTシャツとジーパンを引き出して着た。黒いTシャツには、自転車に乗った可愛らしい絵柄の恐竜のワッペンがついていて、とても気に入っている。
ケータイと財布をカバンに入れ、リュウトは家を出た。
「あー、しまったなあ。パジャマ脱ぎっぱなしで、テレビもつけっぱなしだったかなー。帰ったらミクに怒られるだろうなー。まあ、いいか!」
リュウトは駅前にたどり着いた。途中で走った甲斐があって、約束の時間には遅れずに行くことができた。
「おーい! リュウトー!」
駅の奥の方面から、アツトの声がリュウトを呼んだ。
「そっちか」
リュウトが声のする方を振り返ると、アツトの他にヒロキと、ミホとリサと、それからハルコがいた。
なんだって同じクラスの女子がいるんだよ、とリュウトは焦った。
しかも、クラスのマドンナのハルコが来るなんて、聞いていない。
「アツト! アツト!」
「は?」
リュウトはアツトに耳打ちした。
「なんで、ハルコたちも来てんの?」
「え? いいじゃん別に。仲が悪いってわけじゃねーだろ?」
「いや、まあ、そりゃあそうなんだけど……」
リュウトは女子が苦手だった。
男友達の間では適当なことをしても大抵は許されるが、女子の前で適当なことをしたが最後、学校中の女子の間で陰口が飛び交うことになる。そうした女子の闇の手口により屠られた友だちを、何人見てきたことか。故に、女子の前では一瞬たりとも気が抜けない。女子は敵なのだ、とリュウトは恐れている。
「ねえ、リュウト、その服、何? だっさー!」
ミホが近付いてきてリュウトに向かって言った。
「えー、何? ホントだ! それ、恐竜? リュウトのセンス、超ウケる!」
ミホの嘲笑にリサが便乗した。
「ねえ、ちょっと。笑うのはやめなよ」
ハルコがミホとリサをたしなめた。
「ごめんね、リュウトくん。彼女たちに悪気はないの……。だから、気を悪くしないでね?」
「あ、え……気にしてない、よ……」
さっそく女子に絡まれたことで、変な汗が流れた。
女子との会話には「正解」を探して言い当てなくてはならない気がする。しかも、絶対に答えを外してはならない難問だ。
「そう! よかったあ。あ、リュウトくん、少しかがんでくれる?」
「え……」
「寝癖がついてるよ。あわてて来たんだね」
リュウトの頭についている寝癖を、ハルコが背伸びして直した。
ハルコのいい匂いがした。香水だろうか。
「ふふふ。リュウトくんって、面白いね」
ハルコはノースリーブにミニスカートという露出の多い服装で、今日はバッチリとメイクを決めているためか、妙に大人っぽい。
教室で過ごしているときも群を抜いて美人だが、今日の姿は完璧だ。
リュウトはハルコに笑われて、顔が赤くなるのを感じた。
こんな風に笑われることになるのなら、きちんと身だしなみを整えればよかったと、後悔の念がリュウトを襲う。
「そんなことより映画行くんでしょ!」
ミホが言った。
「あー、そうだったそうだった。じゃ、リュウトも遅れずに来たし、行きますか!」
ミホの言葉にアツトが答えた。アツトはリーダー気質の陽気な男で、彼に従っていればだいたいなんとかなる。なんとなく一緒にいて、なんとなく友だちになった間柄だ。時々、強引なときもあるが、根はいい奴だ。
リュウトたち六人は電車に乗り、映画館に向かった。数駅先の映画館は、駅を出てすぐのところにある。
「こんな大勢で映画館に行くなんて久しぶりだなー」
アツトがつぶやいた。
映画館の中は、かなりの混み具合だった。
「ねえ、わたし恋愛映画がみた~い!」
ミホがアツトに猫なで声で話しかけていたので、リュウトはなるべくそちらを見ないようにしていた。
「そんなんつまんねーよ。それよりあれみようぜ」
アツトはホラー映画らしきポスターを指さした。
当初の予定では、少年漫画が原作のアニメ映画をみるはずだったのだが、女子がいるからか、アツトの中で勝手に予定が変更されたんだろう。別に、それはどうでも良かった。
「おい、リュウト。みんなの分のポップコーン買って来いよ」
来たか、とリュウトは思った。
アツトは女子の前だと悪ぶるところがある。パシリに使われるのはオレだよな、とリュウトは覚悟していたが、予感は的中した。
「わかったよ」
売店へ向かおうと、リュウトが後ろを向くと、ハルコが思いついたように言った。
「え? ちょっと待って! リュウトくんだけじゃみんなの分のポップコーン持てないよ。わたしも行く!」
そう言ってハルコがついてきた。そして流れるように手慣れた動作で腕を絡ませてきた。
「ふえっ」
変に緊張しているせいで、変な声が出た。当然、変な汗も出る。
「わたしも、リュウトくんと一緒に行きたいな……いいよね?」
少し上目遣い気味のハルコのキレイな顔が間近にある。
パッチリしすぎた目元を見すぎると、ブラックホールみたいな黒目に吸い込まれそうだ。
「いいよ……っていうか、手伝ってくれてありがとう……」
「ううん、わたしも。アツトたちより、リュウトくんと一緒にいたいし」
「ええっ!」
――動揺するな、佐々木リュウト! これは女子特有の好意アピールだ。別にハルコはお前のことを好きなんじゃない。誰にでも好意を振りまいて、男子を勘違いさせたところで一気に喰らってやろうって作戦なんだ! 騙されるな、騙されるな……女子はおっかないんだ。ハルコも例外じゃない。
と、リュウトが独り相撲をしていると、またハルコが話しかけてきた。
「リュウトくん!」
「はいっ!」
「何か考え事? すごく真剣な顔をしていたけど」
「な、なんでもないよ。なんでも……」
「ふーん。……そうだ! わたしね、ずっとリュウトくんとこうして遊びに行きたかったんだ」
「へ、へー……」
「リュウトくんは、わたしのこと好き?」
「ああっ! カウンター、あいた! ポップコーン買ってくるよ!」
売店のカウンターがタイミングよくあいたのでリュウトは逃げるように駆け込んだ。
あの手の答えがない質問をされたら、逃げるが勝ちなのだ。
女子の質問には、必ず「正解」しなければならないのに付け加え、一瞬で答えなければならない。沈黙は死なのだ。
そう思い込んでいるからこそ、女子とうまくコミュニケーションが取れないのも頭ではわかっているのだが、リュウトはまだそこまで器用な人間ではなかった。
「ポ! ポップコーン六個と! 飲み物がえーっと、えーっと……!」
リュウトはハルコとポップコーンを持ってアツトたちの元へ戻ると、アツトが不機嫌そうな顔をしていた。
「遅いぞ、リュウト」
「ごめん」
ポップコーンを買いに行っている間に、どうやらあの指をさしたポスターのホラー映画をみることになったらしい。
ホラーは大の苦手だから、上映中はずっと目を閉じていよう、とリュウトはこころにかたく誓った。
「席、どうする?」
「わたし、リュウトくんの隣がいい!」
アツトの問いにハルコがすかさず答えた。
ハルコは見た目以上に押しが強い性格らしい。同じクラスでも、今まであまり話したことがなかったからわからなかった。
ハルコの返答に、アツトの表情が陰るのをリュウトは見逃さなかった。
想像以上にはやく帰りたくなった、とリュウトは思った。
前三人、後ろ三人で取っていた席は、前がミホ、アツト、リサ。そして後ろがヒロキ、ハルコ、リュウトになった。揉めずに決められたことにリュウトはホッとした。時間や身だしなみにはいい加減だが、家族以外の人間には気を人一倍遣ってしまうのがリュウトの性格だ。
照明が暗くなったのを見計らって、リュウトは目を閉じた。ホラーなシーンに正気でいたら、恐怖のあまり死んでしまう。
薄暗い館内だ。すぐに眠れるだろう。だが、穏やかな表情で目を瞑ったリュウトの期待は、すぐに裏切られることになった。
「ギャアアアアアアアアッ!」
ミホとリサのけたたましい悲鳴がシアター内に反響する。
「ギャアアアアアアアアッ!」
映画に出てくる怪物以上の化け物のような声をあげるミホとリサ。爆撃機か何かと間違えそうな悲鳴の前では、どんな睡魔に襲われようと眠りようがない。
上映時間およそ百分、リュウトは歯を食いしばって耐え抜くことを覚悟した。
だが、本当の絶望は左隣の席から忍び寄ってきたのだった――。
「え?」
リュウトの左腕に、生暖かい感触がした。
リュウトは全身の毛が逆立つのを感じた。
この感触は――。
見ると、リュウトの左腕には、ハルコの右手が乗っていた。
「え?」
リュウトはハルコの顔を見た。顔はスクリーンに向けたままで、平然としている。
――これは、どういうことだ? カップルとかがよくやる映画館内での手つなぎデートって奴なのか? な、なんで? どうしてこうなった? こうなってしまったら、一体、どうするのが「正解」なんだ?
リュウトは考えた。
――ふりほどくのはまずいだろう……。しかし、手を繋ぎ返したとして、避けられたら勘違い男として学校中で有名になってしまうのでは? かと言って、そのままでいるのは不自然すぎるか……? 考えろ、考えろ、オレ! くそっ、こんなことになるなら、来るんじゃなかった……。悪夢でも見続けていた方がマシだった!
映画は、無事に終わった。
結局、ハルコの手をふりほどけず、かといって握り返す勇気もなかったリュウトがとった作戦は、映画が終わるまでの残り時間をひたすら動かずじっと耐え抜くことだった。そうすることしか、できなかった。
「面白かったねー!」
ミホとリサの元気さが恨めしい。
「時間があるね。この後どうする?」
「わたし、すぐ近くの雑貨屋さんに寄りたい!」
ハルコの提案にみんなが賛同した。
「オレは……その辺のベンチで休んでるわ……」
「なんだ? リュウト。ホラー映画、そんなにこわかったのか?」
アツトがリュウトを茶化した。だが、反論する元気はない。
「そうなんだ」
「マジか。まあ座っとけ。じゃあ五人で行こうぜ」
アツトが先導して、五人は雑貨屋へ向かっていった。
「ふう……。やっと落ち着けるよ……」
リュウトは、映画館を出てすぐのベンチに腰をかけた。
「ここの映画館。家族でよく来たなあ。怪獣映画が好きで、同じ映画を何度もみたいって駄々をこねて、連れて行ってもらったっけ。ミクの奴、怪獣がこわいくせにお兄ちゃんが泣かないように一緒に行くー、なんて言ってよくついてきたよな。ふふ」
怪獣映画の大きな広告を見ながら、リュウトは昔を懐かしんだ。ホラー映画でもなく、アニメ映画でもなく、本当はこの怪獣映画を一番みたかった。クジラの怪獣が、三つの首を持つドラゴンと戦う映画だ。こういうのを好んでいると知られたら、きっとアツトたちにオタクだのなんだのとからかわれるだろうな、と思った。
十月の下旬、少し肌寒い風が吹いている。
高校一年生になって、もう十か月。それなりに楽しく過ごしているけれど、もう少し面白いことが起きればいいのにな、と思ってしまうときがある。
「そんなこと、今はどうでもいいか……」
「何が、どうでもいいわけ?」
ギクッとした。背後に、ハルコがいた。全然気が付かなかった。こころなしか、怒っているように見える。
「リュウトくんってさー、いっつもこうなわけ?」
――ああ、やってしまったようだ。
「全ッ然、空気読めてないよね!」
――どこで「正解」できなかったなんて、考えるのはやめよう。
さっきとはまるで別人のような口調のハルコと、目を合わせないようにした。
「わたしがせっかく色々と誘ってあげてたのにさ、なんなの? 女の子に恥かかせて、楽しい?」
リュウトは無言を決め込んだ。こんなときは、何を言ったって無駄だ。
「黙ってないで、なんとか言ったらどうなの? 一緒に歩いてあげて、一緒に映画みてあげて、それだけしてあげたんだから雑貨屋でプレゼントの一つでも買って女の子に渡すのがオトコでしょ!」
「……」
「はあ? 無視? 明日から学校でどういう目に遭うか覚えてなさいよ」
キレイな顔立ちをしたハルコも、やっぱり中身はこわい女だった。ハルコの望む答えは出せなかったかもしれない。しかし、ここから先で大事なのは、自分の選択に間違えないことだ。無駄だと分かっている言い訳をしたり、機嫌を取るために
雑貨屋からアツトたちが出てきて、こちらに気が付き向かってくるのが見えた。
「おーい! ハルコー! リュウト~!」
ミホが手を振っている。
ハルコは笑顔で手を振り返した。
「ハルコ、見て。このピアス、アツトに買ってもらっちゃったー」
ミホの満面の笑みの後ろで、アツトがミホを憎らしげに見ている。高かったんだろうな、とリュウトはアツトの心情を察した。
「よかったね、ミホ」
「ねえ、あれ、何だろう?」
ミホがハルコの頭の上の、さらに上空を指さした。
空に何かが浮いているのが見える。
「ドラ……ゴン……?」
ヒロキがそうつぶやいた。
リュウトたちの上空に、地上に降りてきたら飛行機くらいの大きさがありそうな、巨大な金色のドラゴンが浮かんでいる。
「何かイベントがあるのかな?」
リサがのんきそうな声で言う。
周りの人々も騒然としだした。
――ドラゴン?
「ぐあっ、頭が痛い……!」
リュウトは突然の頭痛に襲われ、頭を抱えた。
あの金色のドラゴンに、見覚えがある。
「リュウト! 大丈夫か?」
頭を抱えるリュウトにアツトが声をかけた。
リュウトは、今朝見た夢を思い出した。
頭上の金色のドラゴンは、空気を吸い込むような動作をして、わずかな時間、停止し、そして映画館に向かって巨大な炎の球を吐いた。
ドラゴンが吐いた炎は映画館に直撃し、映画館は爆発した。
近くにいたリュウトたちは、爆発の勢いで全員弾き飛ばされた。
「きゃああああっ!」
リュウトが目を開けると、さっきまで普通に存在していた日常が、変わり果てていた。
――地獄絵図だ。
リュウトはそう思った。
映画館があった場所からは炎と煙が立ち上り、火の手から逃げようとする人々が右往左往している。もう手遅れなのか、動かない人たちも何人かいる。
「アツト……たちは?」
弾き飛ばされたせいで全身が痛い。リュウトは痛みをこらえながら必死でアツトたちを探すと、いた。怪我をしているが、リュウトほどの怪我ではないようだ。
「よかっ……た……」
リュウトは立ち上がった。全身が死ぬほど痛いけど、ここから逃げなくては痛みすら感じなくなってしまう。まだ、死ぬわけにはいかない。
「みんな、逃げよう……」
「リュウト! その怪我、お前、お前……」
あのアツトが涙ぐんでいる。
「オレの怪我はいいから……! はやく、ここから逃げよう……」
リュウトは空を見上げてドラゴンをにらみつけた。
夢で見た、巨大なドラゴン。金色の鱗で覆われた、邪悪で凶暴なドラゴン。夢では焼き殺されてしまったが、現実でもそうなるわけには絶対にいかない。
ドラゴンは、炎の球で映画館を焼いたときのように、空気を吸い込む動作をした。
「まずい! もう一撃、来る!」
リュウトは叫んだ。
その叫びに被さるようにハルコが叫んだ。
「待って! みんな! わたしを置いて行かないで! 足が
ハルコの方を見ると、恐怖で動けないでいるようだった。
「嫌ぁあ! わたし、死にたくない!」
「バカかよ……!」
リュウトは吐き捨てるように言った。ハルコには嫌な気分にさせられたが、こういう緊急時には、そういう話を持ち出すのはなしだ。
ドラゴンは、ハルコのいる場所に火を吐こうとしているようだ。
「ぐっ! あああああ……」
リュウトはハルコがしゃがんでいる位置まで駆け付け、ハルコの身体を持ち上げ、アツトたちの方へ突き飛ばした。
「リュウトくん!」
「リュウト!」
それが、その行動が、命取りだった。
アツトやハルコの目には映っただろうか。リュウトの身体が、ドラゴンの吐いた炎に包まれて、形が無くなっていく光景が――。
「リュウトォオオ!」
アツトたちの絶叫がリュウトの耳には聞こえていた。
――ドラゴンの吐いた火をまともにくらってしまったらしいな。もうダメだ。助からない。みんな、生き延びてくれよ……。ごめんな、父さん、母さん……ミク。
リュウトの意識は、暗い空間の中にあった。肉体は失われ、魂だけがここにあるといった風だった。
――なんだ、オレ。生きているのか? それともこれから死ぬのか?
暗い空間の中に、ぬっと金色のドラゴンの頭が現れた。
――お前は!
『汝は、選ばれた』
ドラゴンの意志が直接魂に反響してくるようだった。
――え?
『異世界に生まれし竜の戦士よ――』
ふわっと、魂がどこかへ飛ばされるような感覚がすると――。
『目覚めよ、異世界の竜騎士よ!』
リュウトは、死んだ。
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