呪いをかけられた姫様命の真面目執事

旦開野

序章

遠い遠い場所にある大陸。その大陸にはいくつかの王国が並んでいる。これらの国々は戦争をすることなく、国同士が交流を図り、それぞれの国民は豊かに暮らしていた。大陸に属する、とある王国。ここはパワースポットであるせいか、どの国よりも魔法使いが多く、魔法によって栄えた国だ。この国の王子は今、とある悩みを抱えていた。


「どうしたらあの怖い執事をかわして、隣国のリンちゃんにこの思いを伝えることができるだろうか。」


ポール王子は隣国のリン姫に恋煩い中だ。王子という立場上、庶民に比べれば色々と都合をつけて彼女に会うことはできるはずだ…本来ならば。しかしそれがなかなかうまくいかない。その理由は彼女にずっと付きっきりでいる一人の執事のせいだ。彼は姫が幼い頃から仕えている古株だ。姫が信頼を置くのもよくわかるが、それにしてもあの執事は過保護がすぎるのだ。一対一で会うことは愚か、非公式に行われるパーティーの誘いですら跳ね除けてしまう。あまりにも過保護が過ぎるので、ポール王子はあの執事、あわよくばリン姫を自分のものにしようとしているのではないかとさえ疑っている。


「隙のないあいつの隙を作って、なんとかして彼女とお近づきになりたい!あわよくば自分のものにしたい!!」


「欲望がだだ漏れだ。俺はいつまでそんな嘆きを聞いていればいいんだ?」


隣のソファに座っていた王子の友人が呆れていた。彼は王子の学生の頃からの友人であるギーム。彼は魔法学校の出身で黒魔術も少しかじっている。こんな友人がいると知ったら両親は失神するかもしれない。ちなみにここはギームが一人で暮らしている家だ。


「いやいや。今日はお前に愚痴を聞いて欲しかったんじゃなくて。ちょっとだけ王子の友人であるギームくんにお願いしたいことがあるんだよ。」


ポールは調子良くギームに上目使いで言った。


「…王子を強調したことによって俺はそのお願いを断れないじゃないか。」


ギームも流石に彼がそんなことをするとは思っていないが、ポールはこんな感じで権力者である。理由をつけて人一人を処刑にするくらい簡単にできる。


「いや、大したことじゃないんだよ?君のその力でほんの少しあの執事に隙を作って欲しいんだ。別に殺せってわけじゃないよ?僕もいずれは一国の王になる人間だ。人に頼んで人を殺してもらうなんてことは流石にしないよ。」


「俺はそれをすることで何か得はあるのか?」


ギームは面倒ごとに巻き込まれたとでも言いたい目を友人に向けた。


「それなりの報酬は出すよ。僕の恋が実った際にはボーナスだって出す。」


「…はぁ。」


全くこの王子には困ったものだ、と言いたげにギームはため息をつきながら重たい腰をあげた。本棚から取り出したのは黒魔術の厚い本だ。


「お、やる気になってくれた?」


「お前のお願いを断れる奴がいるのであれば、俺はそいつを見てみたい。」


ギームは再びソファに座り、膝の上に厚い本を置いてパラパラとページをめくりだした。


「俺は一応魔法学校は卒業しているが、黒魔術については最近独学で学びだした素人だ。そんなに大した術は使えないぞ。」


「それくらいでちょうどいいよ、変に強力な魔法使って死なれても困るから。」


ポールの言葉を流しながらギームは次から次へと黒魔術の本をめくる。しばらくするとあるページで動きが止まった。


「これくらいのものであれば、ばれたところで可愛げがあるんじゃないか?」


ギームは右ページを指差してポールに見せた。彼は本を覗き込んで文字を追った。そして右口角を少しだけあげた。


「いいね、これ。こうなってしまえば僕はリンちゃんに接近できる。」


「しかもこれ、簡単な魔法の割に解き方が結構厄介だ。結構時間を稼げるんじゃないか?」


「あの国は科学に優れている分、魔法には疎い。解き方にたどり着くまでも苦労しそうだ。この呪いを奴にかけるぞ!」


ギームとポールは小さな部屋の一室で、呪いをかける準備をした。

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