饕餮的短編集

穏やかな午後

「うー……、あちぃー……」

　畑仕事の合間の休憩。

　白い雲がプカプカと浮かぶ青空を見上げながら、自宅の縁側で麦茶を一気に飲み、扇風機にあたりながらも団扇で扇ぐ。

　田舎の、しかも山間の村とはいえ、夜は肌寒くても昼間はそれなりに暑いのだ。

「冷えたスイカがありますよ。食べますか？」

「おう、もらおうかね」

「そう言うと思って持って来ましたよ」

　ふふ、と笑った女房が盆にスイカとおかわりの麦茶を載せて俺の目の前に置くと、女房は隣に座って一緒にスイカを頬張る。

　同じ村出身の同級生だった女房。しょっちゅう喧嘩してたが、いつの間にか惚れて所帯を持った。

　子供も五人授かったが、一番上は戦争に行ったきり帰ってこなかった。帰って来たのは、遺品と、ごく僅かな私物だけだ。

　村に残ったのは、家を継いだ次男と、同じ村に嫁に行った長女。三男は都会へ働きに出て所帯を持ち、次女は隣町へと嫁に行った。

「あら？　雲ってきましたね……」

「ん？　……ああ、一雨くるな、こりゃ。畑が渇いてきてたからちょうど良かったがよ」

「あら、急いで洗濯物を入れないと」

　そんなことをいいながら洗濯物置き場に行く女房を見ていると、同じタイミングで玄関から出て来た次男の嫁が、女房と笑いながら一緒に洗濯物を入れている。洗濯物を物干し竿から取るのは嫁、それを受け取って色とりどりの洗濯籠に入れるのは女房。

　なんとも息のあったやり取りである。

　それが終わるころに近寄って籠をかかえ、三人で玄関を上がったところで空が急激に暗くなり、あっという間に雷鳴を轟かせて大粒の雨が降りだした。

「間一髪だったね、お義母さん」

「ありがとねぇ、助かったわ」

「こっちも助かっちゃった。あ、そうだ。こないだお義母さんが作ってくれたお菓子なんだけど……」

「ああ、あれはねぇ……」

　滝のように降る雨と雷鳴を聞きながら、俺のうしろで女房と嫁がお菓子作りの話をしている。

　他家ではどうかわからないが、どういうわけか我が家は嫁姑共に仲が良い。まあ、たまに喧嘩もしてはいるが、たいていは次男が二人の中間の意見、あるいは両方の意見を取り入れたのを提示することで、見事に治めている。

　俺ではそんなことはできないから、いつも「たいしたもんだ」と感心しきりではあるが。

　しばらく降っていたは通り雨だったのか、次第に雷鳴も止んで雨も止む。作物が心配になり、「畑に行って来る」と言って立ち上がる。

「あ、お義父さん、とうもろこしか茄子が欲しいんだけど」

「朝見た限りではどっちも良さそうなのがあったから、 持って来てやるよ。他にも色々採ってくる。何に使うんだ？」

「皆さん今日帰って来るって連絡あったから、夜はバーベキューにしようと思って」

「おお、いいね。日本酒やビールは足りそうか？」

「配達頼んだから大丈夫よ～。お義母さん、串に刺すの手伝ってくださいね」

「下手なんだけど、いいかしら？」

「あら、それが家庭っぽくていいんじゃない！　あたしだって下手っぴなんだから、大丈夫だって！」

　そんな話をしている女房と嫁に苦笑しつつも「行ってくる」と声をかけて家を出る。

　ふと空を見上げると、山から山に橋を架けるように大きな虹ができていた。