宇宙人にされた男 四
「もう一度お訊きしますが、この宇宙人に俺はなるんですか?」
俺は血の気の引いた顔で博士にそうきいた。
「そういう事ね」
博士は宇宙人を見ながらニヤリとして答えた。
「……元に戻れるんでしょうね?」
「契約書には、(身体を元に戻す事とする)という一文があったでしょ」
そう博士が言ったが、そうじゃなくて俺の知りたいのは技術的に元に戻れますか?
という事だった。が、博士はまるでひとごとのような返答をした。だが博士からすれば確かにひとごとだ。
「君の名は歴史に残るかもね」
博士が俺を見てウインクした。だけじゃなく舌も出した。どういう意味なんだ。
理解に苦しむ。胃が痛い。 ――閃いた。この人はきっとアインシュタインの真似をしたんだ。寒気がした。
俺は歴史になんか名を残したくなかった。早く家に帰りたい心境だった。
ここの場所と状況を説明しよう。ここは地下だ。というか地底だ。ここは富士中腹から地下300メートルの場所だ。国防省の秘密基地みたいな施設の中に俺は今いる。こんなところに大規模な施設があるなんて本当に驚く。まるでナサ(NASA)みたいだ。或いは国際的な施設かも知れない。
現にここには白人が大勢いる。ここは確かに日本の自衛隊の基地なのだが、NASAが加担しているのか、NASAに日本が加担しているのか、その辺の事情は俺にもよくわからなかった。
俺の前には大きな手術台が二台並んでいた。
その一つにゲテモノが寝ている。もう死んでいるが。そしてもう一つの手術台に俺が寝る事になるんだ。
俺は昔の本郷剛みたいに人体改造されるのか。やっぱり怖すぎる。
と、突然俺の頭にアイデアがひらめいた。
「博士名案が浮かびました。この宇宙人の精巧な着ぐるみをつくり、それを着て宇宙人になりすますと言うのはどうでしょう?」
俺は極上の笑みを湛えて博士にそう提案した。返事がなかった。俺はシカトされたらしい。俺の周りには博士と白衣にマスクをし、手術用のゴム手袋をはめた連中が数人いた。
そして透明なスクリーンが壁半分に張ってあり、その向こうに自衛隊の幹部のお歴々が俺たちを見ていた。その中に内田陸将の顔もあった。
「さあ用意は出来ているんだ。優秀な外科医が揃っている、心配はいらないかも」
かも? なんで、かもなんだ。はったりでもいいから「いらない」と言い切ってほしかった。油断をした瞬間、俺の腕を注射針が襲った。さほど痛くは無かったが、まもなく頭がぼーっとしてきた。
さよなら……。 俺は心の中でそう呟いていた。それは自分自身へのお別れの言葉だった。
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