Chapter1 悲劇&衝撃


 ――ことのキッカケは、ハロウィンを前日に控えた金曜日。

 午前の授業も終わり、昼休みの息抜きに友人とやっていたトランプゲームが原因だった。


「はぁ? ハロウィンの仮装かそうをして他人の家にお菓子を貰いに行けだって!?」


 見事5回連続で大貧民になった俺、秋野アキノ空護クウゴは幼馴染みであるナオキ大富豪ユウ平民にとんでもない罰ゲームを命令され、声を荒げて抗議した。


「学校に来る途中でパンチラが見えた俺は今日最高にツイてるから絶対負けねー、とかアホなことを言ってたのはクーゴだろ〜? 男ならちゃんと言ったことは守れよな〜」

「アレをキメ顔で言い切ったクー君は、誰から見てもヤバいくらい気持ち悪かったもんねー。僕なんて鳥肌が立ちそうだったもん」


 紙パックの紅茶をストローでズズズ〜と飲みながら文句を言うナオキと、タケノコの形をしたチョコ菓子をボリボリとむさぼりながら俺をジト目で見つめるユウ。


「いや、このご時世に赤の他人の家を訪ねるなんてヤベーだろ。下手すりゃ警察呼ばれるぞ?」


 まだ高校2年生なのに、こんなくだらないことで警察のお世話になるなんて嫌すぎる。

 俺は持っていた手札を机の上に放り投げると、残り少なくなっていたタケノコチョコを鷲掴わしづかみにして口へと放り込んだ。


「あっ、やりやがったなぁ!? 俺まだ食ってねーのに! ……まぁ心配すんなって、その辺はちゃんとリサーチしてあっから。なぁ〜、ユウ?」

「とーぜん。ほら、僕らが卒業した小学校の裏に、ちょっとした豪邸があったでしょ? クー君にはあそこに住んでるお爺ちゃんの家に行ってもらおうと思って!」


 ……あぁ、毎年クリスマスにやたら金の掛かってそうなイルミネーションを飾っていたあの屋敷か。

 小学校の運動会とかのイベントに時たま顔を出すような、子ども好きの優しい好々爺こうこうやって感じの老夫婦が住んでいた記憶がある。

 この二人の話によると、その老夫婦は元々先生だったらしく、遊びに来てくれるのはいつでも大歓迎らしい。実際にユウは今でもその家を訪れることが偶にあると言っていた。


「……で? お前らは俺にどんなコスプレをさせる気なんだ?」

「ふっふっふー。実はそれはもう決まってるんだよね。ねー、ナオキ?」

「おうよ。俺が前もってで丁度良さそうなのを見つけておいたぜ。そしてクーゴが負けた時点で、ポチっと注文済みだ!」


 ――なんて余計なことを。ていうかそのコスチューム買う方が金もかかるし、よっぽど罰ゲームらしいんじゃないのか?

 俺が首をかしげている間に、ナオキはスマホをスイスイと操作して購入した画面を見せてくる。


「なになに? ……おい、この犬耳はなんだ。このピコピコ動く尻尾っていったい何なんだよぉ!?」


 その画面に映し出されていたのは、モッフモフ仕様の犬耳とフサフサな尻尾。

 そして柴犬のようなクリーム色のパーカー風コスチュームだった。


「それになんだこの追加オプションって! 首輪とリードは完全に用途がちげーだろ!」

「「声が大きい!」」


 おっと、つい大声が出てしまった。

 クラスを見回すと、女子の数人がこちらを見てヒソヒソと話をしている。

 俺がナオキとユウとつるんでいるのを見かけるといつもニヤニヤしている奴らなので、今回もきっと俺達のことを陰で馬鹿にしているのだろう。

 威嚇いかくをするようにキッと睨むと、彼女たちはサッと目を逸らしてどこかに行ってしまった。


「……と、いうわけでもう注文はしたぞ。ハロウィン当日である土曜日にはお前ん家に届くようになってるから、それを着てちゃんと行くように」

「そうそう。僕もクー君がどうなったか、結果を楽しみにしてるからね。頑張れー?」

「いやいやいや、ちょっと待てって!!」


 その後も俺は下校の時間ギリギリまで抗議を続けたが、残念ながら二人は聞く耳を持たなかった。

 それどころか中学時代の恥ずかしい失恋話をクラスメイトにバラすと脅された俺は、仕方なく罰ゲームを受け入れるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る