第9話 傍迷惑とはこういうこと

「……まったく。いい迷惑です。『側妃を置かない』と誓ったからといって、そのために第二子の誕生が遅く、それゆえ目に入れても痛くないほどのバカ親っぷりって……」

「で…殿下ぁ……国王陛下御夫妻を『親バカ』って……」

「親バカではありません。バカ親です」

「……どっちにしても酷いです」

はぁ~…と溜息をつくのは、従者として今回の『依頼』に付き添うことになった、神殿近衛兵のひとりであるアディールベルト・ギャラウ・ドルントだった。

「アディーは今回、初めての護衛でしょう?私とヴィヴィニーア様の因縁を正確に知っておいてもらわねば。そのうえで使えるのならば、今後も指名します」

「指名って……それに私の名は『アディールベルト・ギャラウ』です!どうか洗礼名で……」

「嫌です」

サクッと却下。

「私たち姉妹は『聖痕』があるというだけで、神殿から洗礼名をもらえないのですよ!とんでもない差別です!!」

「……聖女様なんですから、その下に仕える神殿長様から授けるわけには」

「生まれたての赤ん坊に、神殿長より知識も歴史も膂力もあるわけないのにー!!」

地団太を踏むその姿は、どう見てもただの十五歳の少女であり、神殿で『聖なる祈り』を捧げたり、『偉大なる守護』といった加護を授ける聖女には到底見えない。

「唯一リーニャ姉様が洗礼名をちょうだいできたというのに……私までも『聖痕』があったために、『お揃い』にできなかったのですよ……」

ウルッと紫紺の目が涙を湛えると、アディーベルトは思わず庇護欲を掻き立てられる気がして、思わず慌ててしまう。

なんと言っても今現在はまだ、ロメリアは第二王子の婚約者殿であるのだ。

下心は──

「私が聖女でなかったら、二対二のツインズ姉妹になれたのに!!」

ズルッと足がもつれたのは、きっと間違いではないと思う。

「そ…そんな……名前だけではないですか!」

「名前だって大事です!寄こせやー!!」


大聖女だけでなく、『聖女』として聖痕を持って生まれた女児は、例外なく『聖女』となった。

これは建国以来、違わぬ事実である。

たとえ本人が拒絶しようと、何らかの災いや戦争など、人の日常に危機が訪れて『奇跡』を起こさざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

故にその決定づけられた運命はまさしく神の御業と捉えられ、ただの人間に過ぎない神官には名付けなど恐れ多いと、聖女となる女児への洗礼名はないのである。

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