五分間のかたらい

星海ちあき

僕の気持ち

 図書館に通いだして1週間、僕は必ず閉館五分前にカウンターへ向かう。そのカウンターにはいつも、一人の女性がいる。

 図書館と言っても、そこらにあるような公立のものではなく、完全に個人でやっている小さなもので、本の販売もしているし、民家を少し改造したような感じだ。

 さまざまなジャンルが取り揃えられている訳ではなく、主に絵本や児童書などが多い。

 だから来る人も小さな子供がいる家族ずれがほとんどで、大人の僕が一人でくるところではない気もする。

 それでも僕がここに通っている理由は、小説を書くためだ。内容は決まっていないが何かの参考になるかもしれないし、この図書館の内装が物語の中に出てきそうということで取材をさせてもらっている。

 特に印象的なのは館内の中央にある大きな螺旋らせん階段だろうか。木製のその階段は本当に物語にありそうなファンタジーな感じが漂っている。

 あの階段も含め、館内の雰囲気自体に現実とは違う何かがあるのだろうと僕は思う。


 中の様子を見させてもらうついでに並べられている本を読んでいるが、結構読み応えのあるものも多いと思う。

 奥が深くいろいろ考えさせられる絵本、いわゆる大人向けの絵本というのも数多く揃っているようだ。

 そんなことを思っていると小さな女の子がカウンターの女性に話しかけているのが見えた。

「お姉ちゃん!ここすごいね!色んな絵本があって楽しい!」

「そう言ってくれてありがとう。喜んでくれて私も嬉しいよ」

 二人はニコニコと笑いながら会話をしている。

 僕ももっとあの人と話したい。

 そんなふうに思うのに実際は上手くいかない。

 取材でインタビューをする時は話せるが、それはあくまで仕事だからだ。もっと個人的なことも話してみたいと思うのに、なかなか上手くいかない。

 僕の視線に気づいたのか、女性と目が合い微笑みかけられる。

 取材も今日で終わりだし、あの笑顔も見れなくなると思うとなんだか寂しい。


 本を読んだり館内を観察したりしているとあっという間に閉館五分前。来館者も全員帰り、取材の時間だ。

 いつもの様にカウンターへ向かうと女性が待っていた。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です。やっぱりここは雰囲気が穏やかな場所ですね」

 ほら、取材なら普通に話せる。でも、このままいつもの様に取材を終えて帰ってしまえばこの人との接点がなくなってしまう。

 また来ればいいだけの話だが、その時にこうして話せる自信はない。

 それなら、もっと話してみたいという僕の気持ちを伝えた方がいいはず。

 取材を終わり、一つ深呼吸をしてから口を開く。

「あの、今日で取材は終わりですが、これからもここにあなたと話をしに来てもいいですか?もっと、あなたと話がしてみたいんです」

 彼女は少し驚いていた。それはそうだろう。取材できただけの男がいきなりこれからも話したいと言い出すんだから。

 驚かない方がおかしい。

「ふふっ」

 気まずくて視線を横にそらしていると、前から声が聞こえてきた。

「いいですよ。私も話してみたいと思ってました。そう言ってもらえて嬉しいです」

 彼女は笑いながらそう答えた。

 これからも彼女と話が出来る。そう思うととても嬉しくて、自然と笑みがこぼれてくる。

 そうして僕たちは二人そろって笑い合う。

 これから始まる五分間。それは僕にとってとても大事な時間になるだろう。

 そんな予感が僕の胸を温かくしていく。

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