水を継ぐもの

青い不思議な夢…ですか?


あー……。

暗い病院で一通り泣いて、もうどうする事も出来ない孤独感を感じていた。声を上げて泣いていたのに、理由わけを知っているのか看護師も医者も一切部屋には顔をださなかった…。


ふと外に目をやると少しだけ雲に隠れた月があでやかに辺りを照らしている。


そうか雨降りで気が付かなかったけれど、

昨日は満月だったんだな……。


月の周期は29.5日。

満月は、新月つまり月のない夜から、

15日目にあたる十五夜に見える。

昨日はまさに雨夜の月ってやつだったんだなー……などとしみじみ考える。

月の光というのは不思議なもの。

感情的な錯乱と混乱が段々と収まって行くのを感じる。


泣き疲れた子供の様に急に激しい眠気に襲われる。ベッドに横になりゆっくりと瞼を閉じる。


静寂…。



ドクンドクン……。



何かを感じる。

しかし瞼は重くひらかない。


ザワザワザワ……。


今度は水の流れる音が耳の側を通る。


ピチョンピチョン……

と雫が滴り


ポタッ、ポタッ……

と次第に地を打ち


ザワザワ……

と周りの水分を取り込み


ザーザー……

と雨が降りだす。


雨……?いやいや先程まで十六夜いざよいの月が煌々こうこうと光っていたではないか?


耳を打つキーンとなる音。


耳鳴り?

体が動かない?

目も開かない……。


カナシバリ?


しばらく大人しくしていると、

瞼が軽くなって行くのを感じたので、

ゆっくりと目を開く……。


青い…やはり雨か?

雨の音以外は無音で何も感じられない。

けれど暖かく

そしてやさしい……。

道々にさく花々。

春を嗅ぐわすほんのりあまい空気。

激しい雨ではないので、

髪の毛や服には小さな気泡のような水滴が残る。


そこをゆっくりとしたペースで歩く。

無意識に足が動く。

前に進むしかないのだ…。


やがて見える朱塗りの門を

一つ一つくぐりぬける。

青い世界に朱塗りの門。

非現実的な世界にも関わらず、

全く不思議な気がしなかった。


朱塗りの門の終わる頃、

そこに髪の長い澄んだ水の様に透き通る程白くてきれい女の人がいる。



来たわね。


あなたは……?

いったい誰なんです?



私は水を読む者……

とでも言っておきます。

あなたは水を継ぐ者ですね?


はい。


えっ?!


いやいやなんの話だ?

水を継ぐ者ってなんなんだ?

なんで私は はい といったのだろう。



そうね…。

何故 はい と言ったのか?

それはね、

翁様曰おきなさまいわく「宿命」ってやつみたいよ。

あなたは前任者の意思で継ぐ者となる宿命だったのよ。



前任者の意思?

宿命?

それに水を継ぐ者?

いったい私はどうしたら良いのだろうか?



質問が多いわね。


と微笑む。



継ぐ者はね、

言ってみれば、

わたしたちと

という事よ。

私たちは直接に人と関わる事はできない。

けれど継ぐ者たちとはつながる事ができる。

私から言えるのはそれだけ。


あなたは大切な人を失ってしまった。

けれどはまだつながっているでしょう?


静子と心がつながっている…のであろうか?




人はみんな一人では生きていけない。

だから人と人で支え合っていくのでしょう?



あなたには 人と人とをつなぐ者 として生きてほしい。それが前任者の願いよ。



いや、まぁ納得できるような…

よくわからないような……。


大丈夫よ。

特別な事は何もしなくて良いの。

ただ山のふちから湧き出た水の流れをゆっくりと見守ればいい。

時には流れに乗せてあげて、

時には流れに逆らう者をなだめて、

大海へと導くすべとなれば良い。

それが水を継ぐ者の運命さだめなのだから。


けれどあなたが最初にしなければならないのは、この世を去ってなお、心のわだかまりをもつ彼女の闇を開放してあげることよね。



静子の闇……?








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