青い雨の記憶 

降り続ける雨

どれくらい歩いたら良いのだろう

この

先の見えない参道を

光はなく

ただひたすら続く一本道。

私はいったい何を目指しているのだろう。

生きるという事は

ひたすら歩き続ける事なのか…。


暗い廃油のような油の上から

朱の絵の具をたらしたように、

ぼんやりと色が滲んでくる。

またか…。


見えてきたのは

朱塗りの門。

それから…


誰かいるの?

誰?


息を飲むように目に映る物を

凝視する。


…先生?!


鳥居の先に懐かしい顔があった。

スーツが似合う、

細身の顔にしっかりした眉毛

高い鼻に紫がかった不健康そうな唇。

いつも神経質な顔をしているのに、

時々よくわからないタイミングで

大笑いする先生。


やっと来てくれたんですね?

私…ずっと待ってました。

先生?…、

先生…。


鳥居の向こう側から

別の何かがソロリソロリと近づいてくる。

ただならぬ気配…。キツネ?


先生の悲しそうな顔。

顔を顰めて…

目尻が下り潤ませて、

何か痛みを耐えるような苦悶の顔で

キツネをみている。


どうして何も言ってくれないのですか?

先生?


雨が益々強くなってきて、

もうビショビショだ。

先生も私も、

白い狐も…


毛を逆立てた白い狐が近づいてきた。

何を怒っているの?

私が何かしたの?



その殺気だった鋭い眼光、

小さいのに唸る声に凄みを感じる。

絶望、嫉妬、険悪、恐怖、

この後起きる事が私にはわかっている。



わかっているのに後退り…。

今まで歩いてきた道が無い。

崖。

後がない、


恐怖と雨に濡れた身体で震えがとまらない。


先生!!

助けて!


さっきと同じ顔でずっとこちらを見続ける。

こんなに追い詰められているのに、

何故か冷静にあー雨って本当に青いんだなー。なんて思う。


暗い一本道

朱い鳥居

白いキツネ

青い景色


知ってる。

この夢は何度も見たから。

この後私は白いキツネに飛び込まれ

崖の下に落ちていく。

青い景色と朱い門を見ながら…。


あれ?

いつもと違うところがある。

何かが違う。


キツネが飛びかかってくる。


あっ…。


月…。


今日大きな月が


暗転



あっ!

と優美が叫び


えっ?

緑郎が振り向く。


看護師さん呼んでくる!

と部屋をでた。


優美が近づいてきた。


あのー…。

助けてくださってありがとうございます。

あなたは私を知ってるようですが、

私はあなたの事は知りません。

名前から教えていただけますか?



助けてもらったのはこちらの方だ。


忘れてしまいたい事がある。

思い出したくない過去

後ろめたい気持ちと

公にはできない話。

誰にも言えないし、

誰も信じてくれない。

自分の中にしまっておきたいけど、

後頭部のキズと

心の穴は塞がらない。


何度となく見てきたこの夢

目覚めた時に一人だとしばらく立ち直れないのだから。



そうして私は涙をホロホロとながす。

近くに人がいてくれた事に感謝する。


目の前に出されたピンク色の可愛いハンカチ

突然泣き出す知らない女に

驚かずに肩を撫でてくれる。

それが優美の優しさ。


そうかあの夢の違和感は、

優しく照らす月の光。


助けたはずの相手に

助けられる。


私も血の通った人間だ。

人は一人では生きていけない。

自分の話を聞いて

理解して共感できる仲間が必要なのだ。


私もちゃんと私の過去といつかは

向き合わないといけないのだろう。







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