解く(ほどく)

心臓が高鳴った。


動悸?

お酒のせい?



彼の存在にスポットライトを当てる様に

月の光が差していた。


人から信頼されない

いつも失敗ばかり

落ち込んでは

一人で慰めて

お酒と

いつか自分を理解して

救いの手を差し伸べて人が現れるという

妄想で自分を誤魔化していた。


私はただ

このままの自分を

受け入れてくれる人を待っていた。


運命とはこうして訪れるのだろうか。

映画の様なラブストーリーが

頭の中で構成される。

その思いが溢れて

また涙がでてくる。

私はきっとこの人と運命の糸で

結ばれていたんだわ…。


ただ偶然出会っただけなのに

まだ何も起きていないのに

根拠のない思い込み。



あれ?

最近寝不足だった上に

お酒飲んだからかな…。

意識が…。


 違うわ…。


違うってなに?

なんか幻聴まで聞こえる…。


 その糸は絡まっているだけ


なんの糸?

Tシャツのほつれ…。


 その糸の先は遠くて近い。


あー駄目だ。

意識が薄れていくのを感じる。



暗転



まさにその言葉の如く

暗闇に転じて

目の前の景色が変わる。


目を開けると

目の前には朱い糸の記憶を辿る前と

何にも変わっていなかった。

ベンチに座り込み、

まだ少しボンヤリした意識を

現実世界に戻す為に、

こめかみに手をやりながら

腕時計をみた。

どうも朱い記憶には

時間軸が存在しないらしい。


優美という女性の朱い糸

複雑に絡まっているが、

おそらく彼女は

その解き方を知らない。

それどころか、

絡まっている事にすら気がついていない。


この細くて繊細な朱い糸は、

扱い次第で

いとも簡単に切れてしまう。

教えられたわけでもないのにそう感じた。


 宿命

 

それは避けて通れない道。

避ける事も変える事もできない。

前世から決まっている運命


深月には

朱い糸は見えても

宿命を変える事は出来ない。

と感じていた。


だけど結果は同じでも、

前を向いて歩ける道を

自分で見つけられるように、

糸を解いていける気がした。


それが月下の翁の言う

深月の宿命なのかもしれない。


まだ優美の紅い糸を感じているうちに、

もう一度に繋がれるように、

目を閉じて

瞼の裏の朱い流星を辿り

彼女を救う為の

糸口を探してみる。







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