episode9.未来
第75話
「なっ、なんだ!?」
地響きにも似た大きな音――。
その音は、このパソコンの中から聞こえている。しかし、スピーカーの機能は初期の状態のままのはずだから、ここまで大きな音はでないはずだ。
それに、こんな建物が壊れる……いや、崩れるような音を俺が知る限りこのゲーム内では聞いた事がない。
そもそも、このゲームには必要のない音のはずだ。
『おい、コレは』
『……早く出ていくといいよ』
『はっ?』
画面上に表示された少年の言葉が、あまりにも小さく、全く読めない。
『この建物は数分も経たない内に壊れる』
『……』
そして、次に表示された文字で、俺はすぐにでもここから離れるべきだと察した。
『早く出ないと、この中にいる人もろともゲームの中からデータ全てが排除される』
『なっ』
淡々とした様子で書かれた文字の表示に、俺は思わず驚いた。
「いや、それよりも」
――少年はすぐさまここから出た方がいい。
このゲームをプレイしているとは言え、自分の分身であるアバターを操作しているだけ俺はともかく、少年はこのゲームでしか存在出来ない。
つまり、少年はここで消えてしまえば、少年の存在もろとも消え去ってしまう。
それが分かっているからこそ、俺は内心焦りながらも、少年に対し色々と説得を試みているのだが。
なぜか向けた視線の先にいる少年は無言のままで、その表情はどことなく悲しみを帯びている。
『…………』
俺にはそれがまるで、自分の『最期』を悟っているかの様に……見えてならない。
そんな少年に対し「何とかしないと」という自分の思いと、少年の行動の意味の板挟みから、俺は何も言えず無言のまま、その場に立ち尽くしていると……。
「ん? あっ、あれ」
なぜか突然、音もたてずにパソコンの画面が真っ暗になった。
「こっ、故障か!? マジか。このタイミングで?」
しかし、パソコンは電源は入っている状態だ。それなのにも関わらず、画面は真っ黒のままという状態に焦っていると……。
「おっ? あれ、ついた……って、ん?」
だが、俺の焦りはどうやら杞憂だったらしく、すぐに画面はついた。
「え。な、なんで」
しかし、なぜかパソコンの画面に表示されたのは、いつもログインした時いる最初の村だった。
『…………』
当然、俺はここに移動する様な操作はしていない。
そもそも、俺はあの『教会にいる状態』で外には出ず、少年を前にして固まっていたはずだ。
それに、少年の言う通りであれば、俺のデータは消えてしまい、それこそ最初から作り直さなくてはならない。
だが、俺のデータは消えてはおらず、ステータスも教会前で確認をした時のままだった。
「…………」
――それが分かった瞬間。
俺は『ある事』に気が付き、慌ててついさっきまでいたはずの『教会』を探しに走り出した……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――やっぱり、ないか」
しかし、たどり着いた先には、そんな建物が建っていた痕跡すら、どこにも残ってはいなかった。
「ああ、そうか。あいつは『負の感情』や『再会』といった『過去』だけじゃなく、これからの『未来』まで……捨てていたのか」
俺は、何も残っていない『教会』が建っていた場所が映っている画面を見ながら、そう小さく呟き、肘をついて両手に自分の顔を乗せたのだった。
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