第35話


 そして、それほど時間が経たない内に、境さんたちとは別に制服を着た警察官が数人来た。


「……もっと人数が来ると思ったが」

「意外に少ないと思われましたか?」


「え、あ」

「……」


 ――しまった、口に出すつもりなんて全くなかったのだが。


「気にせずとも、すぐにたくさんの人が来ますよ」


 そう言って神無月さんはニコッと笑ったかと思うと、なぜかすぐに「はぁ」というため息と共に軽く片手で自分の頭を押さえた。


「ほら、来ましたよ」


 俺は神無月さんその様子を見て、思わず「ん?」と呟いて振り返ると。


 何やら騒がしく現れたパトカーも含めて現場に駆け付けた警察官が出て来るだけでなく、大きな作業車も同じ道から現れた。


「なっ!」

「これはこれは……また大がかりですね。でも、仕方ありませんか。なにせ川に人が落ちてしまったのですから」


「いや、それにしたって……だな」

「西条さんは初めてあれを見られるのですか?」


「え?」

「いえ。驚きと同時に何やら興味津々に見ているように思ったので」


「あっ。いや、昔。図書館で見た子供の図鑑で見たような記憶はあって、それでつい……な」

「ああ、なるほど。ああいう風に動いているのを見るのは初めて……というワケですか」


 そう、俺が見た事があるのは、今言ったとおり『写真』での姿でしかない。だから、まぁ思っていた以上の大きさにただ単純に驚いたのだ。


「それにしても……」

「ええ」


 俺たちはそう言いながら、後ろを振り返った。


『何々? どうしたの?』

『え、また事件?』


『事故じゃない?』


『いやぁね。全く』

『本当、物騒ねぇ』


 そこには、男女の性別だけでなく年齢も関係のない。それこそ老若男女関係なくたくさんの人たちが集まっていた。


「気になるという気持ちは分かるが、それにしても多いな。さっきよりもふえているんじゃないか?」

「まぁ、一応。ここも『住宅街』とまでは言いませんが、近くに家はたくさんありますから」


 一般的に『野次馬』とは、こういう人たちの事を言うのだろう。さっきも何人かいたのは目に入っていたが……。


「さすがに道を空けようとはしてくれると思うが」

「ただそれでも結構な人が集まってしますから、とても作業車が通れそうにはないですね」


「この道もそこまで広くはないからな」

「ええ」


 確かにこの道はそこまで広くはないものの、だからと言って一方通行と言うほど狭いというワケでもない。


 ただ、それでも車二台が『ギリギリ通れる程度』の道幅である。


「おや、さすがに車を途中で止めて降りて来ていますね」


 しかし、やはり野次馬が集まっている事もあり、その作業車に乗っている警察官とおぼしき人たちは続々と降りて来ていた。


「さて、僕も自分の仕事に戻るとしますか」


 そう小さく呟くと、神無月さんは俺に軽く手を振ると、そのまま車から降りてきた人たちの元へと駆け寄った行った。


「ご苦労様です!」


 そして降りて来た人たちに対し、神無月さんはそのまま「こちらです」と言って現場を案内をしていった。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「おい、こっち早く!」

「しっかりロープはつないでおけ! 流されるぞ!」


 そして、大きな作業車から出て来た重装備の人たちはすぐに準備を整え、川へと進んでいった。


「…………」


 実は境さんたちが呼んだ応援を待っている間。


 俺はようやく落ち着きを取り戻し、話せるまで回復した女性から「救急車は、私が自分で呼びました」という話を聞いていた。


 そしてさらに詳しい話を聞くと、どうやら女性は川に落ちたという友人から「ここに来るように」と呼び出されたというのだ。


『友人の姿を見つけた私は、すぐに声をかけたんですけど』


 女性が言うには、女性の声に気が付いたその友人がそのまま足をすべらせ、川に落ちてしまったらしい。


「…………」


 一連の話を聞いて、俺は思わず「なるほど。だからここに最初に来たのは応援を呼んだ警察車両ではなく、救急車だったのか」と納得した。


「…………」


「どうかされましたか?」

「い、いえ。何でもありません」


 そして、俺たちは『発見した人』というよりは『駆けつけた人』として刑事さんに事情を聞かれた。


「ご協力ありがとうございました。また同じ話をお伺いする事があるかも知れませんが……」

「はい、分かりました」


 俺がそう言うと、刑事さんは軽く一礼してそのまま後ろを向けて立ち去って行った。

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