第14話
「だぁから、あれほど日頃から気をつけろって言っていただろ?」
「そっ、そうなんだけど」
「しばらくは甘い物は控えて、先生の言う事を聞いて大人しくしないとな」
「うぅ、分かっているよ」
光はよっぽど今回の検査結果がショックだったのか、少しふて腐れながらも、俺の言葉に素直に頷いた。
「って、僕の事はいいんだよ。兄さんの方はどうなの?」
「どう……とはなんだ?」
「もう、はぐらかさないでよ。仕事の話だよ。それ以外に何かある?」
「あ……ああ、仕事か。あー、いつもと何も変わらないな。この間はなぜか木の
「……なんで兄さんがそんな事しているのさ。専門職じゃないの? それ」
「近所の爺さんが腰が悪くて高いところが出来ないからとりあえず木を切って欲しかったんだと、全く。俺を『何でも屋』と勘違いしているな? あの人たちは」
「まぁ、それは今に始まった話じゃないけど……で、今は?」
「今は『ペット探し』だな」
「ふーん、いつものごとくってワケだ」
「ああ、そうだな。だが」
「だが?」
「いや、いつもならそろそろ見つかってもおかしくない頃合いなんだが、今回はなかなか……な」
「へぇ、なぜか動物に好かれちゃう兄さんに寄って来ないって事は、よっぽどシャイな子なんだね」
確かに、俺自身なぜか動物に好かれている……という自覚はある。
いや、そもそもアレは『好かれている』というよりは『バカにされている』とか『ちょっかいをかけられている』といった表現の方が近い様な気もするが。
それでもなんだかんだで、俺はその性質を上手く仕事に利用させてもらっている。
「シャイか。そうなのかも知れないな」
しかし、仕事の依頼を受けて大抵二週間以内には見つかって保護しているのに、今回はかなり手こずっている自覚がある。
「どうしたの? 何かひっかかる事でもある?」
「ひっかかる。そうだな。まぁ、あるにはあるんだが、そんな事より境さんから『ハーブティ』をもらったんだが、欲しいか?」
「え、いいの?」
「ああ、俺一人じゃ風味が落ちる前に飲みきれそうにないからな。とりあえず、もらった分を全部持ってきたんだが」
「って、なんでこんなに種類があるの!?」
目の前に広げられた茶葉の種類の多さに、光は目を丸くした。
「そこはつっこまないでくれ。しいて言うなら『境さんだから』としか言えない」
「はぁ、分かった。そういう事にしておくよ」
そう言って光はため息をついた。
「…………」
神無月さんと面識はあるものの、光は境さんと会った事がない。ただ、俺の話を聞く限り、光の中の『境さん像』がどんどん『変人』として出来上がっているように感じたのだが。
――うん、決して間違いではないな。
まぁ俺も、最初に用事があって交番に来た時は飲み物の種類の多さに驚いた。それこそ「ここは喫茶店か!?」とツッコミを入れたかったほどだ。
「…………」
いや、たとえ喫茶店でも紅茶やコーヒーの専門店だったとしても、あそこまで茶葉やコーヒーの種類はないだろう。
しかも、種類が多いだけでなく、そのどれもが高そうな入れ物に入っていて、飲み物を入れるコーヒーカップやコップ。そして、コーヒーなどを淹れるための道具もなんというか、すごかった。
その上、それらの道具を使って神無月さんは飲み物を平然と出しているという事自体おかしいと思ったのだが……。
「…………」
あの時はとてもそんな事を言える雰囲気ではなかった。
しかも、置いてある道具を見たモノを見た限り、神無月さんが何気なく使っていた道具もかなり高いモノだという事は何となく察しがついた。
この『高そう』という事が『何となく』でも分かってしまったからこそ、俺はあえてこの道具の値段などを境さんに聞かなかった。
なぜなら、それを聞いてしまったら多分、その値段に怖じ気づいて今までと同じ様に何事もなくあの飲み物を飲めそうになかったからである。
それは、神無月さんも分かっているのか、もしくは最初は色々言っていたけど、諦めてしまったのか、それか何かしらの条件付きで納得したのか……。
いずれにしても、神無月さんと境さんは俺が訪れる度に、美味しい飲み物を出してくれるのだった。
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