第13話
「…………」
「そういえばさ。兄さん」
「ん?」
「また事件があったみたいだね。都道府県自体違う話だけど」
「あっ、ああ。そうだな」
「なんだ、知っていたんだ」
「まぁな」
「そっか」
念のために……と日頃からニュースを見る様にはしていたが、元々ここは穏やかで静かなところだっただけに、地元のニュースを見ていても事件や事故の情報はほとんどない。
ただ一応は『探偵』と名乗っている事もあり、地元のニュースだけでなく、全国のニュースを見ておいても損はないだろう。
「そもそも事件だの事故だのに無縁だった場所で、殺人事件が起きた」
「……」
「それにまた不可解な殺人事件が起きたとなれば、否応なしに気にするだろ? たとえ県は違っても」
「そうだね。やっぱり気にするよね」
そう言って光は「クスッ」小さく笑った。
「それにしても、ホテルの殺人事件が起きてもう一ヶ月経ったが」
「犯人は分からないままみたいだね。でも、世間的にはもう殺人犯なんてどうでもよくて、被害者家族の方に焦点が向いてしまっているみたいだね」
「まぁ確かに、被害者の家族は色々と問題はあると思うのだがな」
「娘さんを亡くしたのは事実なんだけどね」
そう、問題は『被害者を取り巻く環境や家族』ではなく『人を殺した殺人犯が捕まっていない』というところである。
「それにしても、あの事件はニュースで言っていた事を踏まえて考えると、壁一面が血で真っ赤に染まっていた事を考えると、犯人の服に返り血がついていないっていうのは考えられないな」
「そうだね。返り血が付いたまま部屋の外に出たか、もしくはその部屋で着替えたりとか、殺害するよりも前にゴミ袋などを着た状態だったか、もしくは裸だったとかじゃないとおかしいね」
「でも、そんな返り血のついた人間がフロントを通って外に出たとは当然考えられない」
「うん、さすがに服の模様……なんて言い訳は通じないだろうし、そもそも目立つからね」
「それに、そういった『
「壁一面に血が付いていたのなら、事故の可能性は限りなく低いだろうし」
「そもそも、外に出たのなら、裏口を使ったはずなんだが、どうやらその可能性は薄いらしいな」
「うん。それもニュースでやっていたけど、兄さんが言っている『裏口』から出られるのは関係者だけらしいね」
「ああ。だから、犯人は従業員の可能性が高いんだが」
「うん。でも、非常用の階段も下りるとそのままフロントにつながっている構造になっているから、使った可能性は低いだろう……という事から、従業員が犯人の可能性は限りなく低いだろうという事になったみたいだね」
「もしかしたら、警察は他にも色々と何か分かっているのかも知れないな」
「そうかもね。でも、兄さんは『探偵』とは言え、結局のところは僕たちと何も代わらない一般人だからね」
そう、いくら俺が『探偵』として仕事をしていたとしても、結局のところは『一般人』である事には変わりない。
「そりゃあ、警察にしても俺の様な探偵を頼るって事は、出来る限り避けたいだろうな」
「そう……なのかな?」
「そりゃあそうだろ。いくら協力関係になったとしても、俺はあくまで『一般人』のくくりの中にいる人間だからな」
「うーん、そうなのかな?」
「まぁ、境さんたちはたまに俺を『使う』事があるが、他の人たちはあまりいい顔をしないだろうな。特に上の階級の人は」
「ふーん」
それでもお咎めもなく、こうして探偵が出来ているのは、相手がやはり『境さん』だからなのだろう。
「まぁ、ニュースでここ最近あまりこの話題を取り上げなくなったのは、不確かな情報を流して万が一にでも間違っていた時の世間からの反発の大きさを避けるためじゃないかと俺は思っている」
「そうだろうね。なんだかんだでこの殺人事件は、悪い意味で世間の注目を集めてしまったからね」
「…………」
「それに、今の世の中は自分の意見をちょっとした気持ちで気軽に世間に発する事が出来るからね。良くも悪くも簡単に」
そう、それは逆に『簡単』だからこそ、良い事も悪い事も起きる。しかし、正直な話。それは普通にしていれば、そうそう『悪い事』は起きないという事なのだが。
「ところで、今日はいつも飲んでいるカフェオレじゃなくて緑茶を飲んでいるんだな」
「えっ。あ……きっ、今日はそういう気分でね?」
「そういえば、さっき会ったナースから今日は検査があったと聞いたんだが?」
俺がさらにたたみかけると、光は「うっ」とたじろいだ。
「その様子じゃ、あんまり結果は芳しくなかったみたいだな」
「うぅ」
でもまぁ、毎日の様に甘いカフェオレを飲んで、あれだけシュークリームをたくさん食べていれば、検査の結果が良くないのも……正直納得出来てしまった。
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