「早く行きますよ。そんな、どうでもいいお墓にこだわらないでください」


「あ、なんだ。来てたの。車で待っててって、言ったのに」


 最近は、ほとんど、つきまとわれることもなくなった。彼女が作ってくれた、このお墓のおかげかもしれない。


「せっかくだから、祈って行く?」


「つきまとってきた女性のためにですか?」


「あ、そっか。祈りたくもないか。じゃ、代わりにわたしが」


 彼女。さっき十字架を切ってたのに。今度はなんかお経を唱え出した。


「色々やるんですね?」


「うん。つきまとってくる女性がどういうタイプの幽霊か分からないし。とりあえず十字架とお経ぐらいは」


 しゃがんでぶつぶつとお経を唱えている彼女の、丸まった背中。


 抱きしめた。


「ぅわっ」


 彼女。びっくりして、立ち上がる。後頭部が、顎にぶつかった。


「あ、ごめんなさい。つい立ち上がっちゃって」


 顎。ぴりぴりする。


「慣れましたよ、俺」


 彼女と、一緒にいるようになって。彼女と、キスするようになって。口元がぴりぴりする回数が、増えた。でも、彼女とキスしたかったので、なんとか、耐えた。


 彼女。


 お経を唱えるのをやめて。


 やさしく。抱きついてくる。


「まだ。死にたい?」


「もう大丈夫ですよ俺は」


「うそ。うそ言ってる」


 彼女には。うそが通じない。


「本当は。死にたい。ずっと。思ってる」


「そっか」


「たぶん。死にたいのは。消えない」


「わかってる。うそじゃない」


「でも。それと同じぐらい。あなたと。一緒にいたい」


「うん。わたしも。あなたが死ぬまで、一緒にいたい」


 自分も。彼女の嘘が分かる。


「嘘ではないですが、ところどころ本当でもないですね?」


「わたしはね。あなたが死んでも。死んだあとも。一緒にいるの。同じお墓に入って。同じところに行くの。ずっと一緒」


「そっか」


「帰ろう?」


「うん。帰ったら。わさびに挑戦しようかな」


「おっ。ついにわさびですか」


「なんか、むかしコンビニで衝動買いしたわさび味のポテトチップスがあってさ。賞味期限が近いんだ」


「見ててあげるね。だめだったら、口移しでわたしにどうぞ」


 彼女とのキスは。ぴりぴりしていて。気持ちが良かった。


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