第6話
イケメンの彼。
今日も。やっぱり。
いつもより、距離が遠い。
職業当てクイズなんて、やるべきじゃなかった。あの日から。彼はわたしよりも離れたところに座るようになってしまった。
「あの」
声をかけても。ちょっと怯えた感じで。
「殺し屋ではあるんですけど。その。正義の味方なんです。わたし。信じてください」
「正義の味方って、自分で正義の味方って公言しない気がします」
うわ。いたいところ突かれた。
「わたし。正義の味方になりたくて。殺し屋になったんです。うそじゃないです。信じてください」
「嘘じゃないのは、その、わかりますけど、殺し屋って言われたら、さすがに」
「大丈夫です。殺したりもしません。コンプライアンス的に問題が出ちゃうので」
「殺し屋なのに?」
「昨今の社会情勢とかがあるんです」
「そうなんだ」
彼。ほんの少し。数センチだけ。こちらに近づいてくる。
「どうやって、殺すんですか?」
「銃で。撃ちます」
あっ。離れないで。行かないで。
「ゴム弾ですゴム弾。当たりどころがわるくても骨折程度です。信じて」
「嘘ではないですが、ところどころ本当でもないですね?」
厄介じゃん。
嘘が通じないし、言外の意図まで的確に読んでくる。当たりどころがわるくても骨折程度だが、当たりどころがよければ。急所に当たれば、けっこう即死。まあ、やらないけど。
「心をですね。殺すんです。銃で撃って」
「心を?」
「はい。最近の方々は、ドラマとか漫画の見過ぎで、銃で撃たれるとしぬっていう固定概念があるんです。それを利用して、銃で相手を撃つと。心がしんじゃうんです」
「心がしぬと。どうなるんですか?」
「何も起こらないです」
「何も?」
「はい。何も」
「嘘じゃないですけど、本当でもない」
ああもう。
「心がしぬとですね。考えることをやめるんです。いるでしょ、どこにでも。考えないひと。何も考えずに働いて、帰ってからも何もせず、ただぼうっとテレビとかだけ見て眠ってまた仕事行く、みたいな。あんな感じの、生けるしかばねになります」
「へえ」
嘘は言ってないぞ。ぜんぶ本当のことだぞ。
「なんか、いいですね。それ」
彼の距離。
前と同じぐらいに。なった。
「じゃあ。俺も。殺してもらえますか?」
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