戯れと言の葉

荼八 十吾

戯れと言の葉



貴女からのお返事を待っている日に書いた文章なので、戯言だと思って一つ見てやってください。


一時半に一服した時です、橙色の火種が夕焼けのように見えました。遠くでは青黒くなる空に、青味のかかった雲がふわふわと浮いているようでそれで居て、太陽は視界の近い所でゆっくりと落ちてゆく。正しく秋の風情だなと、そう思いました。


ライターも同じです。


燧が弾けて、ゆったりと身を焦がしオイルと共に無くなっていく。ふわふわと揺れる炎に僕らは何を期待しているのでしょうか。


仇役、世界のお終い、それとも貴女の存在。


貴女のお返事が来るまでに、どれ程のことを考えたでしょうか。私と云うライターの芯は、私と云うライターのオイルは何を思ってもえていたのでしょうか。


どうか、私のことを使い捨てにして下さい。切れかけの綿にオイルを注ぐのが間に合わなくなる様にどうか。


私はきっと貴女の愛おしい人として生きていくのでしょう。だからこそ、あの日に無くした消しゴムのように、あの日に諦めた解答用紙の様に、あの日に棄てられたぬいぐるみの様に。どうか、いつの日か私のことを忘れて下さい。そして、ふと思い出した時の感傷に触れてもう一度、貴女の中に私と云うライターに火を付けてください。


その時に、どう貴女は私のことを消しますか。


ジリジリと燃してオイルが消えるのを待ちますか。

カチンと蓋を閉じて消えた跡の熱に触れますか。

それとも貴女の雫で私を濡らし二度と本当に二度と使い物にならなくなる程の感情を捧げてくれますか。


私はこの文通の中で、紙に文字が書かれる感覚を覚えました。


其れは、インクがペン先に吸われ、紙を伝いそして文字となる。その一つひとつが迚愛おしく感じるのです。その先も又同じ様に、一度封を綴じられ、貴女の元に届き、開封される。

其の文字ペンとインク 紙の織り成すドラマを貴女は目撃しては、私の為にまた繰り返す。その繰り返しが、幾度も、幾度も、繰り返され、一通目の手紙が色褪せ朽ちて解けて其れでもその一つひとつを明確に記憶している。いや、曖昧にもなっていくことでしょう。貴女に揺れ動かされ、私と云う存在がぶれて貴女を考えること以外が鬱陶しくなってしまったように。だとしても、また何時かあの一通目に瞳を滑らせてしまった時に私は又きっと直ぐにはペンを握れずに、切手を封筒に入れ忘れてしまうことでしょう。今、貴女が分け与えてくれた、言の葉の数々が私の中で木霊するこの日々が色鮮やかでキラキラと煌めいています。だからこそ、この日々を何時か一度忘れ、またペンを持つ時に一瞬でいいのです。ほんの一瞬だけ私のことどうか思い出して下さい。


何よりも愛おしい友人へ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戯れと言の葉 荼八 十吾 @toya_jugo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ