環状線

 肌にベタリと張り付くような空気が鬱陶しい。

 じわじわと体の内側から暑さが湧いてくるような感覚に囚われ、手に持っていた水を一口飲んだ。ペットボトルの表面に浮かんでいた汗がカッターシャツに小さなシミを作り、ほんの少し煩わしさを覚えた。しかしこの暑さだ。きっとすぐに乾くだろうと思い直し、また改札へと目を向けた。

 程々に都会で程々に田舎にあるこの駅は程々に人通りもある。きちんと見ていないと、友人の姿を見逃してしまう可能性があった。

 同じ電車に乗ってきたであろう一塊の人々がそれぞれの目的地へ向かってバラけていく中に友人の姿は見つからない。赤いイヤホンを辿って後ろポケットに入れていたスマホを取り出した。

 午前七時五分。

 多分、次の電車で来るだろう。いつも待ち合わせギリギリに来るのはあいつの悪い癖だった。

 適当に流行りの曲を詰め込んで作ったプレイリストから、嫌いなアーティストの曲が流れ出して思わず音量を下げた。イヤホンの片耳を外すと途端に駅の中特有のざわめきが帰ってきて、辺りを見回す。

 大半がスーツの男女という中、1人、目に止まる男がいた。

 同い年くらいの、同じ制服のやつ。

 こんな暑い時期なのに長袖の学校指定セーターを着ていて、見るからに暑そうなのに汗一つ流さず、逆に寒そうに首を竦めていた。

 あまりの異質さにこちらの汗も引いていくような寒気が背筋を凍らせる。そいつは俺と同じようにイヤホンをしていて、チラチラと腕時計を見たり改札の方を見たりして誰かを待っているようだった。縋るようにスマホを取り出し液晶を表示させる。

 午前七時八分。

 改札の奥の方からまた、人の塊が押し出されるように歩いてきていた。早くこの場から去りたくて必死に目を凝らす。ようやく見つけた友人はスマホに目を落としたままのんきに改札の列に並んでいた。

 ピッという少し間抜けな電子音が絶え間なく鳴り、改札を抜けた友人がスマホからこちらに目を向ける。説明は後回しにしてとにかく早く学校に向かおうと友人の元に駆け出した瞬間、少し離れたところに居た長袖セーターのやつも誰かを見つけたように歩き出した。

 思わず立ち止まった俺には目もくれず、そいつは俺が待ち合わせていた友人に声をかける。電車が発車することを知らせる鋭い音が駅を満たして、声をかき消した。

 仲が良さそうにそいつと話す友人は、長袖のカッターシャツを着ている。

 ブレーカーが落ちたように、目の前が暗くなった。


 肌にベタリと張り付くような空気が鬱陶しい。

 じわじわと体の内側から暑さが湧いてくるような感覚に囚われ、手に持っていた水を一口飲んだ。ペットボトルの表面に浮かんでいた汗がカッターシャツに小さなシミを作り、ほんの少し煩わしさを覚えた。しかしこの暑さだ。きっとすぐに乾くだろうと思い直し、また改札へと目を向けた。

 友人は、まだ来ない。

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