夜
エアコンの稼働音が止まった。
細く開けていた窓からじわじわと部屋の冷気が霧散していき、じっとりとした空気が肌にまとわりつく。タオルケットですら暑く感じて払いのけた。
視線を横へ滑らすとすやすやと眠る妹が見える。おおかたスマホをいじりながら寝落ちたのだろう。充電器のコードが絡まって妙な寝相になっている。起こさないように静かにそっとコードを外してやる。途中でむずがるように唸ったが、深い眠りの中にいるようで起きることは無かった。
そこでふと、音が聞こえることに気がついた。冷気を逃がさないために閉めていたドアのせいでくぐもって聞こえるが、水の流れる音だ。キュッとコックを捻る音が時折挟まる。どう聞いてもこれはシャワーを浴びている音だ。
まだ寝ぼけた頭で祖母か母のどちらかがシャワーを浴びているのかと思ったが、先程妹のスマホに表示されていた時間は午前2時半頃だった。
こんな時間に起きてる家族はいない。
急速に目が覚めていく。霧散したはずの冷気が帰ってきたかのように冷や汗が止まらない。洗面所の棚を開閉する音がやけに大きく聞こえた。
栓が閉まりきっていないのか、ぴちょん、ぴちょん、という音が小さく聞こえる中、人が動き回り服を着ている気配がひしひしと感じられる。風呂場に顔を向けているのも恐ろしく、かといって、ドアから得体の知れないモノが入ってこないかどうかが気になって今更逸らすことも出来ない。
たん、たん、と1段ずつ階段を昇って、廊下の軋む音がどんどん部屋に向かってくる。あと2歩か3歩で部屋につくかどうかという時、隣のドアが開く音がして部屋に入っていった。
そこまでしか記憶が無い。
次に目が覚めた時に慌ててスマホを確認すると、午前4時だった。まだ陽は昇っていないようで辺りは薄暗かった。知らぬ間に詰めていた息を吐き、そこで気がつく。
私に妹はいないし、この家に階段も隣の部屋もない。マンションの一室の1番奥の部屋。母と祖母と私の3人暮らしだ。嫌な汗が背中をつたう。
耐えきれなくなって母を起こしに行こうとドアに駆け寄った瞬間、隣の部屋がガチャ、と開く音がした。
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