今日は朝から体調が悪い。

 目が覚めた時から最悪だった。体が酷く重く感じる。まるで体の芯から鉛になってしまったようで、布団から一歩出ることでさえ煩わしい。

 さらに追い打ちをかけるような偏頭痛が容赦なく襲いかかってくる。いくら薬を飲んでも治まらず、ズキズキじくじくと痛む。くせ毛に寝癖のダブルコンボでいつもよりもはね放題の頭を抱えこんで、肌寒さから身を守るように布団の中へ深くもぐった。

 こんな日は何もしないのが吉だ。水と薬、あとは副作用の眠気だけが味方する。少しだけ、昔の元気な頃に戻りたいと思わなくもないなと考えた。

 バケツをひっくり返したような勢いの中を、この身一つで走り回っていたというのだから末恐ろしい。あれから5年ほどしか経っていないというのに、やけに懐かしく感じるのは全部この空模様のせいだ。

 この時期は何も出来なくなる日が増えるからあまり好きではない。唯一の良い点はベランダのミニトマトの世話が楽になるということくらいだろうか。

 全ての音を吸収して静かな世界だけを響かせ続けるこの天気は、1人取り残されたような気持ちにさせるものだから、つい嫌な事ばかり考えてしまいそうになる。体調が崩れるから精神もバランスを崩す。まるで風邪をひいているかのような感覚だ。これさえ無ければ晴れの日よりは好きな天気であるというのに。

 どこか夢現のまま、這うように布団から出て窓の傍へと寄る。

 庇からぽたぽたと落ちる水滴や、排水溝がいつもより何倍も働いている音が心を落ち着かせる。すぐそこに見える小さな雑木林は葉が項垂れているからなのか、一回りほど小さいような気がして面白い。

 隣の棟と繋がる短い遊歩道を、サイズも色もバラバラな傘が早足気味で通っていくのがちらほら見える。ごく稀に今どきでは珍しい合羽を着ている人も通るが、あれは恐らく管理人だろう。

 そんなことを考えながら布団に戻り目を閉じた。


 いつの間にか眠ってしまっていたようで、気がつけば部屋はオレンジの光で満たされていた。

 少し開けたままだった窓の外からは少しの湿気と、濡れた土とアスファルトの独特の匂いが仄かに漂ってきていた。

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