TAKARAKUJI

文綴りのどぜう

TAKARAKUJI

「おめでとうございます!1等は

a01組 101800番の方!1等は2億円です!」画面の中で、やけに派手な服装のお姉ちゃんが、白い歯を見せた。チカチカと照らされたその番号は、何度見ても、手元に握った紙切れに印字されたそれと同一だった。目眩がした。


正に天の恵みとはこのことだと思った。当たるといいな、というありがちかつ朧な期待を持って、ちびちびと毎年買い続けていた。買いながら、当たるわけがないだろう、何を馬鹿な出費をしているのだ俺は、とどこか鼻で笑っていたりもしたので、いざ実際に想像もできない額を手中にすると、実感など全く湧かなかった。

今年で13年目になる自宅のローンを帳消しにしても、たんまりお釣りが来る額だった。何に使おう。何をしよう。貯蓄して老後の趣味に使ってもいい。妻は一度南米に行ってみたいと言っていたっけ、それもいいな。高校受験を控える娘に、何か流行りのかわいい服でも買ってやろうか。もう私の頭の中の妄想達は、気球の様に膨らみ、熱を帯び、明日からの生活を想像するだけで浮かれていた。早く帰って、家族を喜ばせてやろう。足取りは軽く、いつもより心地よく、夕焼けの橙を肌に浴びた。


「ただいま」

「あら、おかえり。早かったのね」

「どうしたの、そんなにニヤニヤして」

「あぁ、まぁな。美代は部屋か?」

「どうしたの〜笑 美代はずっと勉強しっぱなしよ」

「飯にしよう。呼んできてくれ」

「わかったわ」


「「「いただきまーす」」」

「パパ、話ってなぁに?」

「これを見てくれ」

「?、宝くじ?またそんなの買ってるの〜?てか娘に見せちゃうの...笑」

「ほら、新聞。よく見ろって」

「え、ちょっとあなたこれ......」

「な?」

「え、え、当たってるの?!すごくない!?」

「うそ......ほんとに?これ」

「うそじゃないよ。ほら」

男が自慢げに見せた記事の切れ端には、

1トウ.........a01クミ 101800ハ゛ン

と、はっきり書かれていた。

「何買う?何買う?(ウキウキ」

「すごいじゃんパパ!!」

「だろ〜?まぁまずはローンを一気に返済しちゃって、それからだな。」

「旅行しましょ!」

「いいよ、行きたいところに行こう」

「お前にも、受験終わったら服でもなんでも買ってやるよ」

「......!わかってんなぁ父よ」

「おう。そうだろうそうだろう」


3人の笑い声が、昨日より暖かい食卓を包んだ。

3日後、早速高級レストランを予約して出掛けた。近場ではあるが、1度も扉をくぐったことはなかった。3人ともあまり体に馴染んでいない届いたばかりのブランド物を身につけ、おずおずと店内へと進んだ。

お腹を満たし、それ以上に心を満たした3人は、その幸福のままベッドに就いた。娘が通うことになった高校の近くに、とてもよい物件が見つかったので、安心して一人暮らしさせられそうだ。少しさみしいが、たまには仕送りがてら顔を見に行ってやろう。これからもっと寒くなるから、南の島にもみんなで行こう。まだ夢を見る前なのに夢のような将来を妄想した男の顔は、これまでの苦労と、これからの希望を思う気持ちとが入り混じった複雑な笑みを浮かべていた。この世は全てお金、そうは思わなかったが、しかしいくらなんでも手にしたものは大きかった。

久しぶりに川の字になった3人は、すぐに深く眠り始めた。




「おめでとうございます!1等は、

a01組 101801番の方!1等 2億円です!」




しまった。セーブを忘れていた。

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