お墓で転ぶと早死にする

すでおに

お墓で転ぶと早死にする

 小学生の頃担任の先生が「私の兄はお墓で転んで早死にした」と話していました。何かのついでにした話でしたが、現実に起きるのかと感心したのを覚えているので、小学校低学年ですでにその迷信を知っていたようです。


 この手の文句は単なる迷信に止まらず、教訓が秘められていることがあって、調べてみると「お墓で転ぶと早死にする」は昔の墓地は不衛生で、転ぶと傷口からばい菌が入って死に至る危険がある、との注意喚起の意味があるようです。


 ただこれもあくまで一説で、そもそも墓は死者が眠る場所ですから、そこで転ぶのはいかにも縁起が悪い。黄泉の使いに隙を見せることで、針にかかった獲物の如く、闇から伸びた無数の手が魂をあの世へ引っ張り込む様が目に浮かびます。黄泉の使いのなす所業と解釈することも出来るわけです。


 では墓場で「後方伸身2回宙返り」を決めたらどうなるのでしょうか。あるいは墓石をあん馬にして「開脚旋回」を決めたら。体操選手ならお手の物でしょうが、黄泉の使いは見事な技に手を打って、寿命が延びるかもしれません。


 迷信の話を続けます。新型コロナのせいでマスクの欠かせない現在ですが、昔は風邪を引いても滅多にマスクはしませんでした。今より衛生観念が低かったのか、僕が子供の頃にマスクを愛用していたのは口裂け女ぐらいでした。


 彼女と道で出くわすと「私きれい?」と訊いてくる。「きれい」と答えると「これでも?」とマスクを取って裂けた口を剥き出しに襲い掛かって来る。「きれいじゃない」と答えても殺される。一つだけ助かる方法があって「それなりに」と答えればいい。そうするとしゅんとして、かどうかはわかりませんが、立ち去ると子供の頃に誰か聞かされて以来頭の片隅に置いて生きてきました。


 近年テレビ番組などで、人の容姿をあげつらうことが戒められるようになりましたが、もしかしたら口裂け女が伝えたかったのはそれではないか。それが彼女が身をもって示した教訓だったとしたら、感慨深いものがありますが、ただの妄信でしょう。


 余談ですが、かつて人気を博したクイズ番組『クイズダービー』では漫画家のはらたいらさんが驚異の正解率を誇りました。いま流行りのインテリ芸能人の走りで『はらたいらさんに3000点』は流行語にもなりました。

 そのせいで『はらたいらは答えを知っている』との噂が流布しました。挙句の果てには『はらたいらが問題を作っている』という説まであって笑止千万でしたが、よくよく考えるとクイズダービー以外では、はらたいらを見なかったなぁ。

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