第一章

第一節

creation〜作り変えるための第一歩と始まりの朝〜

僕には、転移前の記憶が無い。

完璧なハズだった召喚魔法に、異変が起こったからだそうだ。

僕は、僕を召喚した女性「ノエル・フラムスティード」様の奴隷だが、世話係という肩書で傍にいる。

ノエル様が言うには、異世界人は地位が低いらしい……。

今は、ノエル様を起こしにノエル様の自室へと向かっている。


ガチャ


「ノエル様、そろそろ起床のお時間です。」

ノエルは、身体を重そうに起こすと乱れた薄生地なパジャマを気にせず、背伸びを始めた。

「おはよう、カルマ。着替え…手伝って頂戴。どんな事でもしていいから……ね?最終的に着替えさせて…く・れ・る・な・ら」

意地悪そうな笑みを浮かべながらも、満更でもない様子で、ノエルはカルマを誘うことを試みる。

「し…しませんよ!だいたい、着替え一人で出来ますよね?手伝う必要なんてないはずです。それに、身だしなみが乱れたら正す努力ぐらいしてください。……目のやり場に困ります。」

少し顔を赤らめて、恥ずかしがりながらカルマはノエルを指摘した。

「それが、いいんじゃない…」

ノエルは、そんな指摘なんて気にせずカルマの反応を見て楽しんだ。

「では、僕はお部屋のお掃除をさせていただきす。」

「カルマ。奴隷魔術の事…忘れてなんかないでしょうね?」

またしても、ノエルは意地悪な笑みを浮かべカルマに脅しをかける。

「ウッ…き、着替えを手伝うだけですよ……。」

顔を真っ赤にしてカルマは、ノエルの座っているベッドへと近づいた。

それをノエルは確認すると、ベッドから降りその場に立った。


「わっ!」


カルマがノエルに近づいた途端、ノエルがカルマに抱きつきながらベッドへと押し倒し、カルマにささやきかける。

「カルマ、今日からよ。今日がやっと、スタートラインよ。」

穏やかでどこか悲しそうな表情をカルマに見られないように抱きついたまま話し続ける。

「もう、貴方を悲しませない。迷わせないわ。貴方は、シャンスじゃない。カルマはカルマだって分かったから。」

そして、カルマから身体を離し自分とカルマの胸の真ん中当たりにある、奴隷魔術の魔法陣に手を当てた。

「その証が…これ。……愛してるわ、カルマ。」

そう言って、ノエルは穏やかな笑みを浮かべた。

「僕もです。」

それに、カルマも答えるように微笑んだ。

「よし、着替えを手伝ってちょうだい。」

「台無しだ……。」

ノエルは、赤くなった顔をカルマに見られないように、聞こえないように、小さな声でつぶやく。

「……恥ずかしがってたら、示しがつかないでしょ…。」

「だから、着替えぐらい自分でしてください言って。僕は掃除をしておきますので……って…。」

カルマが掃除をするために周りを見渡すと、本は種類別にきっちりと並べられ、どこにも取り出したままのものはない。

他の物も、綺麗に整理されており更には、ホコリすら見えないと思える程だった。

「…いつの間に。」

「私は、貴方よりちゃんとしているわ。」

今更何を。と言わんばかりの口調だった。

「そうですか。」

(僕は、要らないって言ってるのと一緒だ)

カルマはそう思い、拗ねた事を自分まで誤魔化す様に冷たく返事をした。

「拗ねないで、カルマ。さっきも言ったでしょ?愛してるって。だから、絶対に離さないわ。」

着替えを終え、持ち物の整理をしながらノエルは言った。

ちなみに、この時はカルマに背を向けていたためカルマに顔は見られていない。

「貴方を悲しませない。は、嘘だったんですか?」

カルマは、同様に冷たく返した。

「あ、悲しませてしまったのね?ごめんなさい、カルマ。今後は、もっと素直になっていいからね?」

ノエルは、両手を広げ「抱きしめて上げるからこちらに来なさい。」と語りかけた。

「もう…いいです。……自分の支度に移ります。」

ノエルの手の内で踊らされていたことに気づいたカルマは、顔を赤くさせて部屋を部屋を出た。


今日からだ。

絶対にノエル様とこの世界を変えてみせる。

その一心でカルマは召喚されてから今まで生きてきた。

「世界を変える前に、まずは学園から……」

カルマは、扉をしっかりと閉め歩き始めた。

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