第3話 自由人
蓮夜と愛奈が悠斗をからかいながら少しの間話していると、一限目の担当教師が教室に入って来た。
教師が入って来たことを確認して悠斗は席に着き、愛奈や蓮夜が授業の準備を始めたのを見て美咲も準備を始めた。
蓮夜は教師が最初に指定したページを開き、ノートの白紙のページを開いてシャーペンと消しゴムと筆箱から取り出すとすぐに寝てしまった。
(こんな早くから寝てて大丈夫なのかな?)
美咲は授業中たまに起きては黒板に書かれた内容を適当にノートに書いては寝るを繰り返している蓮夜を一限目の間心配そうに見ていた。
授業が終わり教師が教室から出て行ったのを確認して、美咲は未だに眠そうな蓮夜に話しかけた。
「授業中ほとんど寝てたけど、昨日の夜更かしでもしたの?」
「ん?ああ、普段から寝るの遅いから昼間はいつも眠いだけだよ」
美咲の問いに蓮夜は何でもないように返しながら教科書などを鞄の中にしまい始めた。
(やっぱり、蓮夜は私を見て話さないんだ)
美咲が誰かに話しかけると、緊張で視線を泳がせる人もいるが必ず美咲を見ながら話す。
少なくとも美咲にとってはそれが常識だったが、蓮夜はそんな常識はないというように美咲に視線を極力向けないように話している。
そんな蓮夜の行動が美咲にはとても珍しかった。
「そんな調子で月末の中間テスト大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だから気にしなくていいよ」
蓮夜は次の授業の準備をしながら美咲の問い簡素に返した。
「ノートもほとんど書いてなかったですし、よろしければノート貸しましょうか?」
「ノートの見直しなんてしないから気にしなくていいよ」
「……本当に大丈夫ですか?」
蓮夜の言葉に美咲は心配そうに声をかけるが、蓮夜は眠いのか「大丈夫、大丈夫」と適当に返してまた寝てしまった。
(本当に大丈夫かな?テスト前に勉強会に誘えば少しは仲良くなれるかな?)
美咲が蓮夜のことを心配そうに見ている横で、愛奈と悠斗はその様子を見ながら苦笑していた。
二人は蓮夜のことを見て心配している美咲に苦笑しながら話しかけた。
「美咲、蓮夜のことなら心配しなくて大丈夫よ」
「ん?どうして心配しなくていいの?」
「そいつ中一の時から毎回平均点ぐらいしか取らないから」
「中学ではそうだったかもしれないけど、今までずっと平均なら苦手科目で赤点を取るかもしれないじゃない」
蓮夜のことを心配している美咲に対して愛奈と悠斗は二人そろって呆れた顔で首を横に振った。
「そいつは平均点を狙ってる取りに行ってるだけだから」
「え?それってどういう……」
「普通にテスト受けてもつまらないから平均点を狙う縛りをしてるだけらしいわよ」
「……平均点って狙って取れるものじゃないでしょ」
呆れてため息をついて説明する二人に美咲は驚きを隠しきれずに、二人に当たり前の質問をした。
「まあ、普通はそうよね」
「普通はね」
「もしかして、蓮夜って相当非常識?」
二人の反応に少し引きつった笑みを浮かべながら二人に問いかけた。
美咲の問いに対して二人は諦めたような顔で無言で頷いた。
二人の態度に美咲は寝ている蓮夜に視線を向けた。
(蓮夜についてちょっと調べてみようかな)
美咲は寝ている蓮夜を見て微笑むと愛奈と悠斗に視線を戻してさっそく質問した。
「ねえ、蓮夜君ってどういう人なの?他にも知ってることがあれば教えて」
「美咲、もしかして蓮夜のこと好きになったの?」
「つ、ついに、あの美咲が恋を!?」
蓮夜に対して興味を示した美咲に対して愛奈と悠斗はわざとらしく驚いて美咲をからかうような発言をした。
「そんなんじゃないわよ。ただ、初めて会うタイプの人だから興味が湧いただけ」
「まあ、美咲を知らない人に会うの私達も初めてだし、美咲の気持ちが分からないでもないけど……」
「美咲を知らないほどの非常識だとは思わなかったからな……」
「もしかして、あんまり蓮夜について知らないとか?」
「そんなことはないが……」
何といっていいか分からず難しい顔をする二人に美咲が首を傾げて二人の言葉を待っていると、二限目の教師が教室に入って来た。
「まあ、詳しいことは昼休みに弁当を食べながら話すよ」
「分かったわ」
悠斗の言葉に簡素に返事をして美咲は急いで授業の準備を終わらせた。
蓮夜は昼休みまでの間、全ての授業で寝て起きてを繰り返して過ごし、昼休みになると教科書などを片付けて昼食らしきパンを二つ持って教室から出て行った。
蓮夜が出て行くのを見送っていると、悠斗と愛奈が美咲の机に自分の机をくっつけて机の上に弁当を置いた。
「それじゃあ、食べながら話しますか」
「そうね」
美咲も愛奈達と同じように弁当を取り出して二人に問いかけた。
「それで二限目の前何を言おうとしてたの?」
美咲の問いに二人は何とも言えない顔をしながらも愛奈が話し始めた。
「私たちが蓮夜を美咲に紹介しなかったのはなんでだか分かる?」
「紹介すると私に迷惑が掛かると思ったから?」
愛奈の問いに対して美咲が少し考えてから答えると、愛奈は少し呆れた顔をして首を横に振った。
美咲の答えに対して愛奈ではなく悠斗が返した。
「誰を紹介しても美咲に迷惑がかかることはないだろ。美咲に迷惑をかけるような奴なんていないんだから」
「そうだけど、過度に気を遣われるのも迷惑なものよ」
「そうかもしれないが、その理由は蓮夜だけに当てはまるものじゃないだろ」
「確かに……蓮夜を紹介しなかった特別な理由があるってこと?」
美咲の問いに二人は頷いた後、理由について説明し始めた。
「理由は大体二つある」
「三つもあるの」
左手の指を二本立てながら言う悠斗に美咲は少し呆れて呟いた。
「まあ、一つは教えられないんだけどな」
「どうして?」
「美咲に言わないで欲しいって言われてるから」
「……ん?誰に?」
「それも秘密だ。まあ、美咲が蓮夜と仲良くなれば、そのうち分かるだろ」
「……そう。秘密なら仕方ないわね」
悠斗と愛奈の言葉に美咲は深く聞くことを諦めて他の理由を説明するように促した。
「まず、一つ目は蓮夜が紹介されるのを嫌がると思ったからだ」
「……蓮夜って私みたいな人嫌いなの?」
悠斗の説明に美咲が不安そうな顔で二人に問いかけるが、二人は美咲を安心させるために微笑んで説明を続けた。
「違うわよ」
「じゃあ、どうして嫌がると思ったの?」
「蓮夜は面倒ごとに巻き込まれるのを嫌がるんだよ」
「美咲みたいに有名な奴と仲良くなると面倒だから嫌だって言うだろうから、今まで紹介しなかったんだ」
「そうなんだ」
美咲は悠斗の説明に納得し、蓮夜に嫌われているわけではないと分かって安堵したが、新たな問題に気づき小さくため息をついた。
「それって蓮夜と仲良くなるのが大変ってことよね」
「まあ、向こうはあんまり関わりたくないって思ってるだろうな」
「やっぱりそうよね」
「大丈夫よ。避けたり無視したりはしないはずだから」
蓮夜と仲良くなることが難しいと分かり落ち込む美咲を二人は苦笑しながら様子を見た。
少して元気を取り戻した美咲は二人に気になっていたことを問いかけた。
「紹介しなかった理由は分かったけど、結局何が言いたかったの?」
二人はため息をついて呟くように美咲の問いに返した。
「蓮夜は兆がつくほどの自由人なんだよ」
「やる気や興味がわかないといつも眠そうにしてるわ」
「確かに眠そうだったわね」
二人の言葉に午前中の蓮夜を思い出して納得した美咲は苦笑した。
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