夜市
以ての外
夜市
私がA子と恋人になったのは高校2年の夏、夜市の日だった。
私の住んでいる町で行われる夜市はアーケード街で行われている。その日は通りの中央に屋台が立ち並び、大勢の人がこぞって集まる。
私は毎年友人を誘って行くのだが、この町にこんなに多くの人が居たのか、とその度に驚かされる。
私がA子との待ち合わせ場所へ着いたのは予定よりもずいぶんと早い時間であった。はりきり過ぎたかも、と少し恥ずかしく思いながら携帯を見て時間を潰す。
A子とは学年が上がってクラスが同じになるまで一切交流のない女の子であった。
しかし、高校に入学してすぐの頃から互いにその存在を認識していた。というのも、私は好きなバンドのグッズであるキーホルダーをリュックサックにぶら下げており、彼女も同じものを学校指定の鞄に着けていたのだ。
その上、委員会が同じであったために月に一度の集まりで顔を見ていた。同じキーホルダーを持っているとわかったのも入学して初めての委員会の日であった。
待ち合わせの時間を少し過ぎた頃、A子が現れた。私の顔を見るなりボブカットの髪を揺らしながら駆け寄ってくる。遅れてごめん、と謝ると私の手を取り歩きはじめる。彼女は手を繋ぐ、ハグをするなどの行為が多い。私はどちらかと言えばパーソナルスペースが広い方である筈だが、彼女のそれを不快に思ったことはなかった。
A子との初めての会話は、2人で夜市へ行くことになる2ヶ月前、6月の事であった。
その日は席替えがあり、新しい席へ移動すると、隣にはA子が座っていた。
話し始めたのはA子からだった。それまで1度も会話をしたことがないのが嘘であるかのように話は弾んだ。好きなバンドは勿論、好きな漫画など何の話をしても気が合った。
私達はすぐに友達になった。
A子と他愛のない話をしながら屋台を回る。屋台には定番のもの他にも、ハンドメイドのアクセサリーのようなものがあったため、2人で商品を覗きこみ、それぞれお揃いのブレスレットを選んで購入した。
屋台を2周ほど回り、歩き疲れたため、喧騒から少し離れた場所へ出た。他の友人とは少し話せば話題は尽き、携帯を触り始めるものだが、彼女との会話では不思議と話題が無くなることはない。永久に話していられるのでは、とすら思えるほどであった。
その時、どういう会話の流れだったか今ではもう思い出せないが、恋愛についての話をしていた。私は異性に対し、苦い思いをした経験があり、その事をA子に話した。
「私だったら、そんなことしないのに」
と、A子がぽつりと言う。続けて、
「きみがカノジョならいいのに」
と。
私はたじろいだ。異性だろうが同性だろうがそんな事を言われるのは初めてだったのだ。きっとここで私が茶化すような返事をすればこの話は冗談になって消える。なぜだか、それは惜しいと思った。
「だったら、なる?」
とA子に返事をする。妙に照れて、顔を見ることができなかった。
A子の手を取って歩きはじめる。そういえば私から手を繋いだのは初めてだったかもしれない、と考えながら。
A子と私はその後、進学の都合で疎遠になってしまい、連絡先もわからなくなってしまった。
今でもあのお揃いのブレスレットを見るにつけてA子の事を思い出す。
夜市 以ての外 @Candy-si
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