(7)築き上げるもの

 道場からの帰り道、二人並んで歩く。


 今日は色んなことがあった。

 中でも印象深いのはやっぱり、しゅーくんと指した一局だ。

 勝てたことよりも、二人で同じ時間を共有できたことが嬉しかった。

 その後のキスはちょっと、恥ずかしかったけど。胸がドキドキした。


 疲れたけど、今夜は奮発するか。


 突然着信が鳴った。

 母さんからだった。


 また何か文句を言いに来たなと思いながら、電話に出る。


『もしもし。あのね、結婚式のことなんだけど』

「うん」

『あんた達のやりたいようにやりなさい。無理しなくて良いから』


 ──あれ? どうした?

 思わずしゅーくんと顔を見合わせる。

 小一時間程説教される覚悟をしていたのに。これでは拍子抜けだ。


『お父さんが、そう言えって』


 ああなんだ、父さんに結婚式のことを言って叱られたのか。

 厳格な父の顔を思い出し、私は苦笑する。そう言えば、母さんのブレーキ役は、いつも父さんだった。


 あれはあれで、お似合いの夫婦かもしれないな。


「ありがとう。実は知り合いの方が式場を提供してくれて、だいぶ費用を抑えられそうなんだ」

『まあ、良かったじゃない!』


 条件として将棋大会に出場することは黙っておこう。


「挙式はもう少し先になりそうだけどね。お婆ちゃんに宜しく言っておいて」

『わかった。私達も出来るだけ援助するから、困ったら遠慮無く言いなさいよ』

「ありがと。じゃあね」


 礼を言って、電話を切る。


「やっぱり、お義母さんの声大きいな」

「だね!」


 しゅーくんの声に、笑って応える。


 さあ、これから忙しくなるぞ。

 結婚式の準備も進めつつ、将棋の勉強もする。

 りんちゃんの受験のサポートもしたいし、それからそれから。


 何はともあれ、彼と手を繋ぐ。

 大変なこともあるけど、彼と一緒なら乗り越えて行ける。


 将棋も夫婦も、本質的には同じもの。

 将棋は棋譜を、夫婦は家庭を。

 二人の力で、築き上げていくんだ。



 第二章・完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る