人狼たちの戦場(20)
スレイオスは戦慄していた。青いアームドスキンのやっていることは完全に彼の常識外である。超文明の産物であるのは間違いない。
(このアレイグでさえ兵器として完成形には遠いというのか?)
発進させた地下格納庫には予備の四基のレギュームが眠っている。射出して利用するのは可能。しかし、そうしたところで同じ結果。レギ・ソードを囲む無数の薄片はビーム兵器そのもののエネルギーを有している。その総量たるや……。
「だからなんだー!」
ベハルタムには解っていないらしい。
「覚悟だと? ふざけるな! そんなアレイグの半分もない機体でどうする。粉砕してやる。見よ、このパワーを! この全能感を!」
レギュームの制御から離れた白狼はアレイグを全速で飛ばす。意図的に動かなかっただけで、この巨大機体は張りぼてではない。
その拳のみでも相手の胸部くらいのサイズ感。ほうぼうが小破しているアームドスキンなら粉砕できるように思える。
「愚かしいな」
薄片の一部がレギ・ソードの正面に集まると、再び花開いたように放射状を形成する。そこに拳を打ちこんでも阻まれる。それどころか拳が削れて金属片を撒き散らしはじめた。接触するだけで分解される。
「やめろ、ベハルタム! 無駄だ。敵が集まってこないうちに撤退するぞ。仕切り直しだ」
「臆したのか、あんたは! くだらんことを言ってないでアレイグにもっと力を与えろ!」
「アレイグには……、これ以上の性能はない。すべて投じた」
(この男、肝心なところで……。読み違えたか)
役に立たないとスレイオスは思う。
(このうえは制御を奪って私自身で動かすしか)
思惑に反し、薄片が舞い散ると異様な動きを見せはじめた。
◇ ◇ ◇
菱形のエネルギーの花びらが舞っている。上空から見るとレギ・ソードを中心に、右回りに渦を巻きだした。そこへ殴打をくわえるアレイグの両腕は半ば粉砕されつつある。
(なんだか綺麗。あれが兵器だって言えるのかな)
デードリッテはそんな感慨を抱いた。
そうしているとベハルタムが操っている巨大機体が反転する。
「逃げるのだ」
「馬鹿を言うな!」
繋がったままの通信回線では言い争いが起きている。脱出を試みているのはスレイオスのほうらしい。
しかし、それも虚しく終わる。薄片が舞ったかと思うとスラスターが切り取られた。狼が「逃がさん」と宣言すると、各部の
「待て!」
「手遅れだ」
渦を巻いていた薄片の群れが大きく動きを変える。レギ・ソードの正面で円形の盾のような円盤を作りだす。水色の薄片はどんどん集まってきて円盤は拡大の一途をたどっていた。
「え、ちょ、なにこのエネルギー量!」
彼女は声を発してしまうくらい驚く。
「こんなのヤバい!」
今や円盤はレギ・ソードの身長を越えている。そこで成長を終えると金色の超高エネルギー集積体と化していた。
「これって……、開放型サイクロトロン……。ありえない」
「それってなんです?」
サムエルが尋ねてくる。
「イオンとかの円形粒子加速器です。本来は装置を利用して生みだすものなんですけど、ブルーはそれを開放空間に作りだしているんです」
「危険なんです……?」
『警告、警告!』
彼の言葉をさえぎってシステムナビが警報を鳴らす。
『当該空間に集積するエネルギー量が危険値に達しています。速やかな退避を推奨いたします』
「っと、そういうことですか」
司令官は一瞬の迷いを見せる。だが、投影された美女が断ち切ってきた。
『あれが暴発すればここを含めた半径500kmが更地になるでしょう。爆心地では地殻にまでも影響するかしら』
怖ろしいことを言う。
「そこまでですか?」
「だってあれ、目に見えているのは加速された粒子だけなんですよ? 本当のサイクロトロンそのものはもっともっと巨大なんです」
『エネルギーは凝縮されておりますの。あとはどう使うだけかの話』
(簡単に言っているけど、全然簡単じゃない話だもん!)
デードリッテは胸の内で悲鳴をあげる。
「レギ・ソードにはそれほどの兵装が?」
『ええ、だってあれがアレイグのようなリューグに搭載されるべき惑星規模破壊兵器なんですもの』
「貴女はそれを彼に託したのですか」
さすがのサムエルも呆れている。
『インターロックはかけてありましてよ。あの兵装を制御するにふさわしい
「それにしても……」
絶句した司令官が
「馬鹿な! なんだそれは! やめろ!」
「本当にアゼルナンのことを考えているならば立ち止まるべきポイントはあった。お前はそれを無視して覇道を願ったのだ。それは独裁者の考え方だろう?」
「違う! 私は真に民族の未来を! 繁栄を願っただけだ!」
「欺瞞に過ぎん。これまでだ」
ブレアリウスは背中からブレードグリップを抜く。
「お前はいったい……!」
光束がアレイグを飲みこみ、一瞬にして消し飛ばした。
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