人狼たちの戦場(13)

 走る先の曲がり角に突如として円錐が現れる。ブレアリウスはブレードグリップの力場盾リフレクタを展開してビームを弾く。左足を軸にレギ・ソードをスピンさせて反動を逃がした。


(手に負えんはずだ)

 狼は舌を巻く。

(レギュームの相手は遮蔽物の多いほうが難しい。しかも重力下でさえ加減速に縛りがない)


 宇宙空間に比べれば加速に陰りが見える。しかし、僅かにすぎない。アームドスキンでも追うのは難しい機動力を維持している。


「ここで墜ちろ。お前にかかずらっている暇はない」

「勝手は言わせん。俺が相手では不服か、ベハルタム?」

 言葉と同時にオポンジオはビームを放つ。

「先祖返り、お前の相手をしているとイライラする」

「敵にイラつくほど素人ではあるまい」

「違う。どうしてお前はそんなに恵まれている」


 オポンジオが狙撃を受ける。陰に入ってレーザー通信は途切れた。


「ごめん、ブレ君。あまり援護できない」

「問題ない。自分を守れ。このあたりは敵影があまりに濃い」


 メイリーはメイリーで敵機と対峙しているのがわずかに見えた。エンリコはそのフォローと接近する敵の牽制でいっぱいだろう。


「どこが恵まれているという」

 再接続アイコンを確認して言う。

のくせに人間種サピエンテクスに囲まれ、認められているではないか」

「縁にすぎん」


 膝を沈めて低く跳ねる。一時的に反重力端子グラビノッツ出力をあげて路面と平行に飛んだ。舗装を溶かしたブレードの切っ先を跳ねあげるが、オポンジオの刃に叩き落とされる。

 右足を付けて懐に入ろうとするも、上空からのレギュームの狙撃に急ブレーキ。踵で路面を蹴りつけつつ後退するしかできなかった。


「人間種社会でしか生きられなかった。馴染む努力をしたからだ」

「そんな簡単な話か。アルビノがどれだけ認められないか知っているか?」


 軸足を置いて今度は出力を30%まであげる。グリップが効いて回避はしやすくなるが身体へのGは強くなる。

 進路上のレギュームに横薙ぎを送りこむ。上に跳ねた砲架に左手のトリプルランチャーの連射を放った。手数は減るが、レギューム相手ではブレードはあまり効果がない。


「居場所があるだけマシだと思え」

「血がにじむような努力で勝ち得た居場所、それさえ不確かなのだ。スレイオスのような革新者がいなければ確立できない。邪魔をするな」

 激しているのか、いつになく饒舌だ。


 オポンジオ本体が遠く感じる。レギュームの連携はアームドスキン二機のそれより固い。前回の戦闘で癖の分析ができていなかったら、もう撃破されていたかもしれない。


「先祖返りふぜいが我が道を阻むな!」

 ベハルタムが吠える。

「そうやって下を見ているから生きづらい。自分のことばかりじゃなく、誰かのために生きてみようと思ってみろ」

「ほざくな。そんな余裕がどこにある」


(余裕がないのは自分の中しか見てないからだ。誰かの中に居場所を見つけん限り、本当の自分など見えてこないだろう)

 白狼はそれに気付く出会いがなかったのだと思った。


 不安と不満の中で見つけた光明がスレイオスだったのだろう。だから、どう思われていようと気にしていない。ただ盲目的についていっているだけ。


「自分との向き合い方ひとつで気持ちは変わる」

 父から学んだ。

「埋没するのが恐怖なら勇気を出して話しかけろ。死ぬのが怖ろしいなら生き方を見つめなおしてみろ。考え方で心の豊かさは手に入る」

「説教するだと!? 生きる価値もない出来損ないがぁ!」

「そうやって自分の立ち位置ばかり気にしているから目がくもる」


 熱反応が背中に突き刺さる。ブレードを消したグリップをその位置に持っていくと衝撃。弾かれた粒子が路面に溶解痕を作る。振り返って想定回避偏差の三点バーストを放った。

 右斜め上からの狙撃にリフレクタを合わせる。摺り足で連射の反動を逃がしつつトリプルランチャーで照準。砲口が勝手にずれるのをフィットバーのフィードバックで感じながらトリガーを押しこむ。


(本当ならここでもう一基のレギュームからも攻撃があるはず)

 実際にはない。

(こちらの予測の精度が高いから余分に回避させなくてはならんのだろう。すると次の攻撃まで間隔が空いてしまう)

 本来なら苦しんでいるはずの攻撃を容易に対処できているのはそのお陰。今もブレアリウスはシシルとデードリッテに支えられながら戦っている。


「瞳が赤くともちゃんと見えている!」

「そうじゃない。自分を通して世界を見てみろ。そうすれば世界が自分をどう見ているかも見えてくる」

 徐々にオポンジオに接近する。

「ぬうぅ! もういい! 黙らせる!}

「できんよ」

「なに?」

 ベハルタムは近い。

「タイムリミットだからだ。空気抵抗の大きい大気圏でレギュームをそれだけ振りまわせばチャージが切れる」

「くっ!」


 ケーブルが巻き取られて機動砲架は本体へと戻っていく。チャージ残量からの自動設定なのだろう。移動経路が分かっていれば狙撃は簡単。二基ともバーストショットを受けて大破し、路面に落ちる。


「解っていてやったというのか」

「ああ」


 そして相手は目前。レギュームの制御に気を取られていたオポンジオは動きが鈍い。さらには重い機体が反応を遅らせる。ブレアリウスの逆袈裟が右肩から先を刎ねた。


「まだぁ!」

「逃がすかぁ!」


 後ろへ跳ねるオポンジオに肉薄する。向けられたビームランチャーを半ばから両断し手首を返す。落とす力場刃が左肩に食い込んだところでベハルタムが振り上げた左の蹴りが飛んできて胸に衝突した。自発的にパージしたのだ。


「見ていろ、お前など!」

 白狼が捨て台詞を放ちながら飛び去る。


 メイリーたちの状況に気を向けたブレアリウスは追撃を断念した。

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