人狼たちの戦場(14)

「市内の制圧、順調に進んでいます」

 タデーラが肩の荷が下りたという感じで報告を上げる。

「各編隊も補給部隊と接触しており、このままで問題ないと思われます」


 サムエルも戦術パネルから敵性色の赤いシンボルが消えていくのを認めている。鎧を剥ぎ取ってしまえばさすがのスレイオスも抵抗の意思を失ってしまうはず。


「各編隊、索敵を継続しつつ残留市民にも注意を払ってください。発見した場合は避難誘導を行うように」

「予備の中継子機リレーユニットも射出しますか? システムにモニターさせます」

「いいでしょう」


(少し手間取りましたが、この程度ならディルギアも復興可能でしょう)


 煤塵が収まってきて、サムエルからも中央のビル群が薄っすらと見えてきていた。


   ◇      ◇      ◇


 排出した弾液リキッドマガジンを補給部隊に手渡す余裕さえ見られる。メイリー編隊は装甲に傷を負った程度の損害しかなく、デードリッテは嬉しさで頬をほころばせていた。


(これでアゼルナ紛争も終わり)

 当初の想定より長期の滞在になったが喜ばしい結果になる。

(どうかなどうかな? もうすぐシシルも取り戻せるはずだもん。ブルーは答えを出してくれるよね?)


 除隊するというなら、今後は彼の好きに生きてくれればいいと思う。もし、このまま星間G平和維P持軍Fの隊員でいたいというなら傍にいる方法を模索しないといけない。


(あっ、わたしったらもうブルーが想いを受け入れてくれる前提で考えちゃってる)

 確率は高いはずだが絶対ではない。

(シシルの意志を尊重して別の道を選ぶ可能性もあるもんね)

 彼女が一番なのは仕方がない。


「戦闘の状況は?」

 狼がユーリンに訊いている。

「軍本部ビル付近はちょっと激しめだったけど鎮静化の方向。今のところは応援は不要みたい」

「そうか」

「無理しないで。オポンジオとの戦闘でビームコートは蒸発してるし、装甲内冷却ジェルの損耗も31%。防御は補給が利かないの」

 つい切ない声が出てしまう。

「すまん。心配してくれてありがとう。市民の情報をくれ。確認できるなら誘導に当たる」

「そっちも情報があるのは外縁部くらいよ。わざわざ向かうほどじゃない」

「政府機関が多いこのあたりではもう逃げだしているか」


 メイリー編隊もディルギアの中央近くにいる。支族会議議事堂などもそう遠くない。オポンジオが確認されたのがその周辺だったからだ。


(待って。なんでスレイオスの護衛のオポンジオがそのへんにいたの? あの人がいる軍本部ビルを守る要なんじゃないの?)


 奇妙な感じがした。まるで政庁地区からGPF機の視線を逸らすように派手に動き回っていたように思える。当然と言えば当然なのだが、それにしては距離が中途半端である。ベハルタム自身もあまり離れられないかのように。


(偶然? それとも何か意味があったの? 白い狼は単に修理換装のために後退しただけ? 違うとしたら……)


 思索を巡らせようとしたところで中断する。通信士ナビオペの一人がサムエルに話しかけたからだ。


「司令、直接よいでしょうか?」

 申告をする。

「ロレフ隊ですか。構いませんよ」

「繋げるわよ。失礼がないようにね」

「こちら、ワッキム。司令官殿、軍ビルの前なんですよ。どうします? 降伏勧告しますか? ちょっとばかり突っついてビビらせてからにしますか?」

 下世話な笑いが続いてナビオペに叱られている。


 中継子機リレーユニットの一基も到着した。ロレフを先頭とした編隊が三つ、十二機のうち一機が超高層ビルを前にランチャーを振って示している。


「馬鹿するな」

 声がロレフのものに変わる。

「すみません、司令。こっちで勧告します? それとも直接そちらから?」

「そうですね……」

「おい、ちょっ! なんだよ!」

 先ほどの声の主、ワッキムという男が驚いている。

「地下が開く。なんか出てくんのかよ」

「総員警戒!」

「袋叩きにしてやんぜ!」


 全機がビームランチャーを構える。開口部に狙いを定めて静止。緊張感が走る。


「来い来い! 今さらなんだっつんだ!」

「ビビってんじゃん」

「うるせ。って、ああん?」

 飛び出してきたのはレギュームだった。ワッキム機を照準する。

「あのオマケ付きかよ! たった二基の機動砲架でなにができる!」

「油断するな」

「先手必勝!」


 狙い違わずビームはレギュームに向かう。しかし、その前面にリフレクタが発生して弾いてしまった。


「なんだって? 前はそんな機能……」

「ワッキム!」

「ひっ!」


 瞬時に円弧を描いたレギュームに背後にまわられる。咄嗟に横っ飛びするが、追尾した円錐の先が光芒を放ち、ワッキム機を背中から貫いた。


「ワッキーム!」

 コクピットを直撃しており、悲鳴をあげる暇もなかった。慣性で路面を転がり停止する。


 開口部から機動兵器がゆっくりと飛び上がってくる。その異様に皆が息を飲んで狙撃するのを忘れた。頭部から胸部、腰部と見えていくがなかなか全容が分からない。すでに全長は40mを越えている。


「でけぇ……」

「マジか……」

「く、全機、撃て!」


 ロレフの号令で我に返ったGPF機がビームを集中させる。ところが現れた超大型機は薄い光の球体を纏う。薄紫の光束はその表面を舐めるだけだった。


「防御フィールドだと!?」


 アームドスキンでは装備できない大型装置である。主に戦闘艦艇や民間船がビームから身を守るために展開するフィールド状バリア。


「厄介ですね」

 横からサムエルの声が響く。

「ほんとに……」

『それではすみませんわ』

「シシル?」

 操縦室に等身大の彼女。

『あれはアームドスキン……、ヒュノスではありません。リューグ。惑星規模破壊兵器です』


 驚愕の事実が美女の口から発せられた。

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