錯綜する策謀(8)

 艦隊後方から接近する別動隊には直掩が真っ先に向かっている。それ以外の方向から迫る部隊には分散した中陣で対処が命じられた。


(まだ増えるだろう)

 ブレアリウスはそう踏んでいる。


 メイリー編隊も他の編隊と連動して迎撃に向かう。別動隊は一様に五十機ほどの中規模部隊を形成していた。それが次々と出現しているらしい。


(軌道エレベータの軍事ステーションに伏せてあったんだろう。地上から上げるほど時間は掛からないし察知もされにくい)

 そこまでは読めた。


 艦隊の側面を突こうとする別動隊に回りこむように接近する。映像ロックオンが利く距離まで詰めると、メイリーの指示で同時に砲撃を開始。


(仕留める!)

 デードリッテがいる艦隊に接近させるつもりはない。


 三連砲の斉射でアゼルナ機が力場盾リフレクタをかかげて弾幕が薄くなったところへ滑りこむ。向けられる筒先に、彼も照準を合わせた。ビームが交錯し、三門のうち一撃が正面から衝突し高プラズマの光球と化す。

 残りの二門を躱したボルゲンに真っ向から突っこむ。横薙ぎの斬撃に機体を寝かせて横をすり抜けた。通りすぎたときには三連装砲の直撃を受けた敵機は部品を撒き散らしながら爆炎の舌をちらつかせている。


(一隊にいつまでも構っていられん)

 大きく息を吸って腹に溜める。


 ブラインドにいた隊長機らしいアルガスがレギ・ソードを照準している。その時には機体を側転させて横に流していた。上下を逆に対峙した相手は戸惑いにほんの一瞬だけトリガーが遅れる。ブレアリウスの一射はそれを見逃さない。

 爆炎の裏で想定位置に砲撃を送りこむ。リフレクタで受けたボルゲンは位置を際立たせ、エンリコの狙撃の的だった。


(もう十分か)


 アクロバティックな機動で翻弄された部隊は混乱している。そこへ他の編隊も駆けつけてきて撃破を重ねていた。


「次に行く」

 狼は告げる。

「はいよ」

「それはいいけど、ブルー。あんた、この伏兵を読んでたわけ?」

「いるんじゃないかと思っていた」

 ただの勘ではない。

「どうして?」

「アルディウス兄は慎重に過ぎるくらい用心深い。それがわずか三分の一の戦力で仕掛けてきた」

「軍司令であるフェルドナンだっけ? あんたのお父さんなら戦力も自由になるけど、兄のほうはそこまで任されてなかったんじゃない?」

 メイリーは可能性を論じている。

「それなら断る。寡兵で敵を撃滅して手柄を誇ろうとか考えるタイプじゃない」

「ほうほう、なるほどね」

「だから何か作戦があるって考えたのね?」

 納得する僚機に彼は「ああ」と一言だけ答えた。


 四つの編隊が別動隊の侵攻を阻止しようとしているが数に押されている。そこへ背後から襲いかかった彼らは一気に突っこんでいく。

 レギ・ソードに最初の一機を両断させると、ブレアリウスはリフレクタをかざして爆炎を縫う。光球の中から出現した敵機に動揺したアゼルナ機は棒立ちになり、砲口を横に振りながらの三連射で中破を与える。あとは姿勢制御の甘くなった相手をブレードで仕留めていく。


(あんたの思惑通りには運ばせん、アルディウス)

 彼方の安全なところで指揮しているだろう兄に念を送る。


 大ダメージを負わせて部隊を崩壊させたブレアリウスは次なる別動隊へと進路を取った。


   ◇      ◇      ◇


「思ったほど効果をあげていませんね」

 艦隊に肉薄する別動隊はまだいない。

「十分さ。主力はまともに機能していないだろう?」

「はい、抜かせてはくれませんが及び腰に見えますね」

「連中、後ろが気になって仕方ないんだよ。本当は反転して艦隊の守備に回りたい。でも、そう命じられないから動けない。意識は散漫な状態さ」


 その危機感はロロンストにも理解できる。アゼルナ機であれば母艦を失っても本星に降下するのが可能。だが、GPF機はそうはいかない。

 単独での超光速航法フィールドドライブなど不可能。直近の拠点は機動ドックになる。そこまで燃料液パワーリキッドと空気残量の兼ね合いを計算しつつ逃げ延びるしかない。相当なプレッシャーになる。


「ここで投入しないのですか?」

 疑問を投じる。

「予備兵力の八百、今使えば主力を崩壊に導けるかもしれないですよ?」

「まだ早い。もう少し弱らせてからのほうが効果的だね。このままの状態を維持しているだけで敵は消耗していくのさ」

「なるほど」


 撤退を決意させるほど劣勢を演出してはいけない。じわりじわりと弱体化を進めてから一気に殲滅にかかると上官は説明する。


「伏兵を全部使ってないしね。まだいくつかの部隊が探知圏外から接近中のはずだろう?」

「はい、あと三部隊が来る予定です」

 タイムスケジュールは彼がそう設定した。

「憶えてるのか。驚きだね」

「お任せいただいたので」

「へぇ」


 通信パネルの向こうから彼の様子を窺ってくる。ここは戦闘宙域から少し離れた場所なので太い回線を維持できる。


「君ほど優秀な駒を手放すとは、父上はもう前線に出る気はないのかな?」

「閣下のお心は自分には如何とも……」

「後継として僕に手柄を譲り、自分は後方で勇退の時を模索するんだろうか。それなら嬉しいんだけどさ。母も喜ぶ」


 野心を隠そうともしない。アルディウスにとって家督の継承はステップに過ぎないのだろう。


(そう簡単だと思っているか? あなたの弟は容易な敵ではなかったぞ?)


 ロロンストは青い機体が発揮する驚異的な性能を脳裏に呼び起こしていた。

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